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彼がすらすらと滑らせる能弁な舌からは最新のセキュリティー・システムやモダンなデザイン性など、各物件の長所が情感もたっぷりに次々と紡ぎだされた。
見事なプレゼンテーションだった。
だけど私は別に企画会議に出席しに来たわけじゃない。
優秀な人間の見事な仕事ぶりや、若い女の子の前で恰好を付けなければならないという男の性的アピールなど、私は一つまみも求めてはいないのだ。
むしろそんなもの邪魔クサいくらいだった。
身振り手振りも交えて熱っぽく語る彼に対し、私はその度、それで日当たりはいいのか?と、冷たく問い続けた。
後半は幾分、その口調に苛立ちさえこもっていたと思う。
だって私が求めているのは日当たりだと最初から言っているじゃないか。
その部屋がどんなコンセプトの元に造られていようが、『期間限定・サクラサク春の新入居キャンペーン』の対象内だろうが、惜しくもその対象外だろうが知ったことではないのだ。
この光景の一部だけを写真のように切り取ることができたとしたら、それはまるで不貞を犯した彼氏が必死になって彼女に弁解しているみたいに写ったことだろう。
私の徐々に徐々に鋭く尖っていく眼光に削り取られるようにして、彼の自信や余裕や勢いは尻すぼみに小さくなっていった。
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