2・マリコの退屈な人生

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 「ほら、バレンタインの時だってそう。ほとんど『チョコあげてね』って毎年私が女の子達にお願いして回ったやつよ、あれ」  「……まさか」  隆司の顔から血の気が静かに引いて行った。  「さ、そんなこといいから早く手を動かして。今日中に運べるだけ運んじゃうんだから荷物」  「まさか……なぁ。そんなこと……え、じゃあマサキがよく声を掛けてきたのも、え、マキちゃんが……え?」    単純スポーツバカな弟の軽口をひねり返してやるくらい、私の手に掛かれば造作もないことだった。                    ***      散々、不動産屋のお兄さんを振り回した挙句、ようやくたどり着いたこの部屋は、私の予想を遥かに超えて素晴らしいものだった。    街を見下ろせるくらいのちょっと小高いところにこのアパートは建っていた。  街の中でも比較的古くから住宅地として拓いていた地域だそうで、確かに年期の入った木造の平屋から新築の瀟洒な輸入住宅、庭の大きさにこだわり過ぎて住まいが小さくなってしまった家や、物置のスペースまで惜しんでギリギリまで建物を大きくした家などなど、定礎年も造りも価格も三者三様な住宅たちがびっしりとそこには集まっていた。     
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