ミスター・レインマン(Ⅱ)

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 実子を失った悲しみよりも、どちらかと言えば、結局は自分達がその死をもたらす発端となってしまったのではないかという罪の意識の方が強かった。  だから長女の死と同時に孫の入院のことも警察からは当然聞かされてはいたのだが、どんな顔をして会いに行けばいいのだろうとぐずぐずしているうちに、日は過ぎて行った。  そして、とうとう血縁者のあまりの無関心さに業を煮やしたレインマン少年の担当医から電話が入った。  何でもいいから一度病院に来てほしいという怒りを含んだ強い口調だった。  そうして遅ればせながらようやく祖父母はレインマン少年の元におそるおそる馳せ参じた次第だった。    病室の入口でそれ以上足を踏み入れるのを躊躇っている二人の横をすり抜けて医師が少年のそばに行き、そっと肩を揺らして声を掛けると、祖父母は思わず息を飲んだ。そんなふうに神のまどろみを不当に侵してしまったら、怒りの業火や裁きの雷(いかずち)が落ちてくるのではないかと本気で危ぶんでいた。  もはや普通の心理状態ではなかった。    勝手に神仏化されているとは思いもしないレインマン少年は、ゆっくりと目を覚ますと優雅に一つ体を大きく伸ばした。  そして、その澄み切った碧眼に、自分を見ながら立ちすくんでいる見慣れない二人の人物の姿をとらえると、とりあえずそちらに向かってニコリと微笑んだ。     
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