ミスター・レインマン(Ⅱ)

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 親のことを恨みたくもないし恐れたくもない、まして嫌いになりたくもなければ否定などしたくはない……子供はただただ親に愛されたいという一心しか持ち合わせてはいない。  だから込み上げる怒りも恐怖も嫌悪も無理に全てを飲み込もうとする。  そんなふうにしてその小さな体一つでは到底おさまり切れないだけの負の感情がどんどん内包してしまう。    そしてその結果、パンクをする。    か細く頼りない子供たちの心は、たやすく限界を迎えてパンク……つまりは壊れてしまう。  そして先にも述べたように、一度壊れてしまった心を修復しようとすると、大人よりも更に膨大な時間と労力を費やし、人生そのものが修復のためだけに消耗されてしまう。  中にはその治療の途方もなく長い過程の半ばで精神が耐え切れずに力尽き、ドロップアウトしてしまう子供も多くいる。  そんなケースに出くわしてしまうたび、医師たちは助けてあげることができなかったという無力感と絶望感にとらわれ、幼い命をそんな境遇にまで追いつめた大人達に向かって底知れぬ怒りが込み上げた。  子供にはなんの罪もない。  幼児の精神の疾患の殆どは、決して子供自身が先天的に抱え込んで生まれてきたものなどではなく、このようにして周りの大人達から何かしらの影響を受けたことによって、後天的に備わってしまうものだった。  レインマン少年は強く、聡明な子供だった。     
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