ミスター・レインマン(Ⅱ)

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 しかし、レインマン少年が順調に回復していくのを喜びつつも、病院側では着実に迫りくる退院の予定日に焦りを感じていた。  少年の身元の引受人が一向に決まらないのだ。    もちろん、その最有力候補は祖父母だった。  血縁者であるとか何親等に属しているとかいう理屈を抜きに、何よりも一般的な道理として当然、彼らがレインマン少年を引き取るべきであったし、病院側もそういう方向で話を進めようとしていた。    しかし、祖父母は引き取りの意志はないとキッパリと言い放った。  断固とした主張だった。  おかげで担当医はまた電話口で声を荒げなくてはならなかった。  まさか家族と行き場を同時に失った無力な子供の引き取りを、唯一の肉親が拒否しようとは、若手とはいえ、豊富な経験をもった彼の小児科医としてのキャリアの中でも前代未聞な話だった。    理由は何かと聞くと、何てことはない、やはり自分達の罪悪感に耐えられないということだった。  とりかえしのつかないことをした、自分達が勘当さえしなければ娘は死ぬことはなかった、レインマン少年がそばにいると常にその負い目に苛まれて頭がおかしくなりそうだ、入院費や治療費、幾ばくかまとまった額の養育費は工面するが、その後は一切関わり合いにはなりたくない。     
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