ミスター・レインマン(Ⅱ)

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 「身勝手な言い分だとは思います。人道に反していることも理解しています。娘の死に責任を感じ、償いをするというのなら、それはきっとその子を娘の代わりに立派に育ててあげることが何よりの償いになるのでしょう。しかし、私たちはそれ程に強くはありません。私も家内も次女も、罪の重さには到底耐え切れそうにもありません。その子の顔を見れば必ず罪の意識が私たち家族を捕らえ続けます。なまじ私たちが引き取ってみたところで、その子に寝床や食料を用意してあげることはできたとしても、抱いてやることも愛情を注いであげることもきっとできないでしょう。そうするにはあまりにも私たちは弱すぎるのです。その子の存在そのものが私たちを責め立てるのです。あるいはその責めに耐えかねてその子を傷つけ、最後には首をしめて殺してしまうことにならないとも限りません。その子の前で正気でいられる自信がありません」  「そんなことは……」  「目の色以外、本当に小さな頃の娘に顔が瓜二つなんですよ」  「え……」  「その子は私たちにとって『呪いの子』です」    そういって少年の祖父は電話を切った。  医師の耳には回線が遮断されたことを知らせる無機質な機械音が流れたが、彼の耳にはただただ祖父の最後の言葉だけが何度も響き続けた。    後日、病院の事務にかなりまとまった額の現金が入った段ボールが宅配されてきた。  添えられた手紙から、それが少年の祖父母からのものであるのがわかった。  その手紙の文面にも、やはり少年の担当医と電話で話したのと同じような内容が書かれていた。  さすがに『呪いの子』とまでは書かれていなかったが、それでも彼らの揺るぎのない意志は手紙を読んだ誰しもが感じとることができた。  そう、少年を引き取らないということとはまた別の、とある確固たる意志までも一緒に……。  
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