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話に華を咲かせ、誰も私の方に注意を向けてなどいなかったのだけれど、ザクッとまるで厚い布地でも裁断したような音がしたので、母をはじめみんな一斉に私の方に向き直った。
その時私はハサミの第二刀目をつむじの付近に入れているところだった。
一同、目の前で繰り広げられている俄かには信じがたい光景に頭がうまくついてきていないようで、誰一人止めに入ることもなく、切られた髪がハラリと床に落ちるのを口をポカリと開けたまま黙って見ていた。
結局、私が四回目のハサミを入れたところでようやく母親が青ざめながら私の手からハサミを取り上げ、頬を打ち、その乾いた音を合図にして美容室全体に混乱が怒涛のように訪れた。
居た堪れなくなった母はそそくさと料金を払い、私の手をグイと引っ張りながら店を後にした。
振り返ると、美容師や頭にパーマのロッドを巻いたご婦人達が唖然としたままこちらを見ていたので、私はそちらに向かっておどけたように、そして何より勝ち誇ったように舌をペロリと出した。
「まぁ、マリコちゃん。どうしたのその髪?」
いつも通っている理容室のおかみさんが目を丸くさせて驚きながら聞いた。
「いろいろあったのよ」
私はニコリと笑いながら大人ぶって言った。
「元に戻せる?」
「うーん、元通りってわけにはいかないだろうけど……」
「なんでもいいや、とにかく整えるだけ整えて」
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