1・マリコの豊かな生活

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1・マリコの豊かな生活

 大学の卒業を期に実家を出て独り暮らしを始めるにあたり、私がまずをもって優先したのは、立地でも家賃でも間取りでもなく、部屋の日当たりの良さだった。  私はそのこだわりを決して生半可な覚悟で心に掲げたわけじゃない。  そのことに関しての私の頑なさは、鋼の貞操帯を二重に着けた鉄の女の操よりもまだ頑強だったという自負がある。    駅前の不動産屋を訪ね、日当たりさえ良ければ特に条件はないのだと告げた時、私の相手をした若い男は、簡単なお客で助かるなと内心で呟いたことと思う。  彼は終始楽観的に構え、目上の者が対場の低い人間に何かを諭す時のような余裕と優越が程よく入り混じった落ち着きを存分に見せつけてきた。  右も左もわからぬ新卒女子大生だと甘く見ていたのだろう。  彼は厚いスクラップ・ファイルの中から適当な物件を手際よくピックアップしては私の前に得意そうに広げ、熱心な説明を繰り返した。  築年数の浅い小ぎれいで洒落た外観の物件ばかりのところをみれば、彼なりに女性の独り暮らしを配慮して気を利かせてくれたのだと思う。     
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