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ミスター・レインマン(Ⅰ)
ミスター・レインマンは決して雨男ではなかった。
むしろ彼の口から滑るように溢れ出る軽妙なジョークは人の心を和ませ、ハンサムで大きな笑顔はたちどころに誰かの悲しみの曇天を吹き飛ばし、一息で明るい気持ちにさせた。
幼少期から彼がいる場所、向かう場所の空はことごとく晴れだった。
どのような低気圧も彼には敵わなかった。
どんなネガティブも彼の前ではひれ伏した。
そう、ミスター・レインマンは稀代の晴れ男だった。
タカシ・レインマンというのが彼の本名だった。
本当は少し長くてややこしいミドルネームがあったのだが、彼自身、少し長くてややこしいから面倒だというので、基本的にはそれを割愛しながら生活していた。
『ミドルネームなんて大した特技もないのに真ん中でやたら前に出て目立とうとするデベソみたいなもんさ』と彼はよく、そうおどけて人々の笑いを誘った。
黒く艶やかな髪色と決して高いとは言えない鼻筋、端正な卵形の顔立ちは純日本風であったのだが、携えた一対の瞳は美しい碧眼だった。
それは海や空、地球の青さを見る人に連想させる程にどこまでも澄み切り、どこまでも美しかった。
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