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2・マリコの退屈な人生
「しかし、この頃から比べたら少しは見られるようになったよな」
と、弟の隆司はアルバムの写真と私の顔とを見比べながら言った。
「だってあの頃、学校の友達にねーちゃんだなんて間違えても紹介できなかったもんな」
「どうして?」
「どうして?よく聞き返せるもんだな、こんな戦時中みたいな髪型しておいて。こんなのがお姉ちゃんじゃ恥ずかしくて誰にも見せられるわけねーよ」
「そっか、だからあんた学校の廊下ですれ違う度に私を無視し続けてたんだ。そういえば一緒の時間に家を出たこともなかったし、なんだか変だなって思ってたんだよね」私は大仰に感心した風を装った。「あんた全然友達連れてこないから、タカシ、友達いないのかなって真剣に悩んだこともあったんだよ」
「まさか」
隆司は鼻で笑った。
「ホント。だから私、こっそりあんたのクラスの子捕まえて『タカシと仲良くしてあげてね』ってよくよく丁重に頼み込んだりしたんだから。よかったね、みんないい子達で。きっと同情してくれてたんだよ」
「まさか」
隆司の顔から余裕が消えた。
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