寒空の昇降口

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響が待っている『ももちゃん』とは、二つ年上で高校三年生の渡辺桃菜のことである。 二人はまだ幼稚園に入園するより前、家が隣同士でよく一緒に遊んでいた。しかし、響が5歳の時、響の家の都合で他県に引っ越しをすることになってしまった。幼いながら桃菜に対して特別な感情を抱いていた響は泣いて嫌がったのだが、引っ越しをするという事実を変えることはできず、二人は離ればなれになってしまったのだ。 それから数年が過ぎ、響は中学二年生になった。そして、中学二年生の秋、響は桃菜と過ごした町に戻ってきたのだ。前に住んでいた桃菜の隣の家に引っ越すことはできなかったが、他県に住んでいたころよりはずっと近くで会うことができるかもしれないような距離で生活をすることになった。 しかし、当時桃菜は高校一年生。同じ学区内とはいえ、家も遠く、通う学校も異なるため、響が桃菜に会う機会は一度しかなかった。その一度も道路の反対側を歩く桃菜を遠くから見つけただけで声もかけられなかった。本当に小さいときの記憶しかないが、あの記憶の面影を残したまま大人びた表情をする少女に響は再び恋をした。
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