1人が本棚に入れています
本棚に追加
「響くん…?」
シン…と音がしそうなほど静かな昇降口に高い声が響く。
「ももちゃん!一緒に帰ろう!」
桃菜がやっと降りてきた。先に帰ってしまおうと何度も思ったけれど、ずっと待っていてよかった。
「もしかしてずっと…」
「待ってないよ 俺も今、帰りなの!」
ずっと待っていたなんて知られたら桃菜は嫌がるかもしれない。だから響きは偶然ということにして、桃菜のことを待っていたという事実は伏せた。
「響くん、嘘つているでしょ。もう、こんなに冷えて…」
桃菜は響の頬を両手で挟んだ。
「コート一枚じゃ寒かったでしょう…これ、使って」
桃菜は自分が巻いていたマフラーを外し、響に差し出す。
「いや、それ使ったらももちゃんが風邪ひいちゃうでしょ」
「いいから!使って!!」
桃菜は背伸びをして、なんとか響の首にマフラーをひっかける。そして手早く巻きつけた。
「よし、これでオッケー」
「…」
桃菜は満足そうだが、響はドキドキしすぎて声も出なかった。
(これ…ももちゃんのにおいがする…)
意図的に嗅いでいるわけではないけれど、口元まで巻きつけられたマフラーからは先ほどまで使っていた桃菜の体温と甘い桃菜のにおいがする。
(てか、ももちゃんもさっきまで口元までグルグル巻きにしてなかった!?)
桃菜の巻き方を思い返してみれば、口元までグルグルにまいた可愛い姿がよみがえる。ということは…
(これって、間接キス!?)
きっと、いや、絶対、桃菜は気づいていない。むしろこれを間接キスと意識してしまう自分が自意識過剰なだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!