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そうして。
河川敷に元愛車を捨てた男は再びーーそれまでとは異なり夜間ではあったけれど。
自転車を乗り回すようになっていった。
さすがに商店街のような人ごみではなく、自宅周辺ではあったけれど。
無職の男は、常時ヒマをもてあましていた。
パチンコその他で、ヒマをつぶすわけにはいかない。金がない。自宅ーーといっても親の家だ。
ならば働けばよさそうなものだ。
若さも健康も備えている。
選り好みをしなければ、働き先はーーこのご時世であってもーー色々とあることだろう。
が、男にはその意欲が決定的に欠けているのだった。
親には四六時中、ぶらぶらしていることに嫌味を言われる。居心地がわるい。
で、歪んだプライドをも充足させるヒマつぶしーー本人に言わせればストレスの解消法が、盗んだ自転車での危険走行だったというわけだ。
罪悪感などカケラほどもない。
そもそもそんなものがあれば、『ひき逃げ』などするわけもない。
まして、轢いた相手を嫌悪し憎悪するようなことは・・・。
男の新たな『危険走行』が、無為な日常の一部となった頃。
それなりに傾斜のキツイーー住宅街の坂の上に、男は深夜に自転車で赴いていた。
そこをブレーキをかけることなくイッキに走り抜けるのだ。
ブレーキをかけるのは嫌いだ。平地であろうと、急な坂であろうと。
たとえ途中の横道から車やバイクが出てきても。いや、仮にそれが人間であっても。
それらを華麗に避けることにこそ意味があるのだ。ポイントがーーそうして運があがるのだ。
うっぷん晴らしになるのである。
男は、何一つ、変わっていなかった・・・。
(ゆくぞ)
ところが。
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