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目の前にすでに物言えなくなった、恐怖に顔をひきつらせ、仰向けに転がるその雑兵。
最後に別れて数年たつが見間違えるはずもない。彼は俺が忍になると村を出る際に、最後まで反対し、しかし最後には励まし送り出してくれた唯一無二の親友、三軒隣の幼馴染みの弥平だったからだ。
刹那、あのおかしな行軍の意味を瞬時に理解し、同時に俺は口を拭い、ふらつく足を奮い立たせ立ち上がった。恐らく俺の実家のある村を襲撃し、男共を従軍させたに違いない。であるならば、姉……。村に残している大切な人。病弱である姉の安否が、気になる。行かねば……! 急ぎ姉を助けに行かねば!
突如肘を強く引かれ、反射的に後ろを振り向いた。
まさに今、村へ戻ろうとしている俺の行動を制止するように、有無を言わさぬ力で腕を押さえつけられる。俺の目に、白髪混じりの、猛禽類のような目を持つ大男、自らが所属する忍隊の頭の顔が飛び込んでくる。気配を全く感じることなく背後を取られるなど、独り立ちしてから一度もない。それ程今の俺は動揺しているのだろう。兎に角にも、丁度良い。隊を一時離れることへの許可をもらおうと声を出そうとした。しかし、うまく声にならない。
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