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第一話 薄明
二人が出会う前。まさに薄明(夜明け前)のお話です。
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その伝令が来たのは、薄明だった。
――勝ち戦である、残党がおらぬか確認し、早々に城へ引き上げろ、と。
東の空が次第に紺色に代わり、次第に橙を帯びてくる。冬近い晩秋の頃だ。空気は既に肌を切るように寒く、秋虫の声ももう聞こえない。死屍累々とした雑木林は不気味に静まり返り、物音一つしない。
思えばおかしな行軍であった。
後軍が火器を携え、前方に配置された足軽を盾に攻撃を仕掛けてきた。こちらも後続の飛び道具を始末するため、歩兵を斬らねばならなかったが、背後の味方による理不尽な攻撃で命を落としたものも多かった筈だ。
雑木林の梢から、近くに人の気配が無いことを確認し、地面に飛び降りる。差し込んできた陽の光を頼りに、足元に転がっている雑兵の一人の顔を見やった。
その瞬間、俺は目を疑った。
それと共に、心臓が跳ね上がるような驚きと、今までどの戦場でも感じたことのない嫌悪。そして沸き上がる恐怖に、体は震え、気づくと、その場に跪き……胃の中のものを全て吐いていた。
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