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薄れていく意識のなかで,ちょうど八年前に,あの人が酔っ払ってこの駅のホームで電車と接触して亡くなったことを伝えるニュースを思い出した。それと同時に両親の顔が頭に浮かび,なにが起こっているのかわからずパニックになった。
唯一理解しているのは,あの人はこの世に存在するはずがないことだけだった。
真っ暗ななかで,やってはいけないことをしてしまったと後悔した。いろんな人に迷惑をかけるのが怖くなり,仕事も中途半端のままになっていることを思い出した。私のミスで上司や同僚に迷惑をかけると思い怖くなった。
これから先,どうなるのかわからず不安と恐怖でいっぱいになった。両親に会いたかった。両親に会って今まで家に帰らなかったことや嘘をついたことを謝りたかった。仕事ももっと頑張ろうと思った。プライベートでもいろんな場所に出掛けようと思った。
そして悲鳴をあげる電車の車輪が,私の最後の意識を電気のスイッチを消すかのように奪った。昔から苦手な音だったが,最後の最後まで苦手だった。
私の身体をバラバラにしながら,電車の車輪があげる悲鳴がいつまでも鳴り響いていた。
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