0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「食事」を終えた山羊頭の怪人が、恍惚とした表情で口元を拭う。
「許さない。よくも、桜子さんを……」
桜子の記憶のアルバムから零れ落ちた、一枚のピンぼけ写真。それを拾い上げ、立ち上がった志穂の眼は、怒り一色に染まっていた。
「おっと、食べ残しが一枚。久方ぶりの食事とはいえ、いささか上品さに欠けていたな。そこのお前も、『思い出』を手放す気は無いか? 私が食ってやろう」
「ふざけないで! 何者か知らないけど、人の思い出は、あなたのご飯じゃない!」
「ならば、力づくで食らうまで!」
羊男は鉤爪を立て、志穂に飛び掛かる。残された唯一の写真を胸に抱き、咄嗟に眼を瞑る。その刹那、眩い閃光が辺りを包んだ。
「何の光だ!?」
光が掻き消え、視界が元に戻るその時。山羊頭の怪人は我が目を疑った。恐怖に慄いていた学生服の少女は、桜色の可憐な装束を身に纏った一人の戦士として相対していた。
「えっ? これって……」
自分が身に纏う、身に覚えのない衣服と装飾を見て困惑する志穂。怪人もまた同様に、困惑の色を隠せずにいた。
「記憶の守り手、『メモリア』……。まさか、こんな時に……」
「『メモリア』って、私?」
「ならば猶更、生かしてはおけん!」
怪人が再び襲い掛かる。対する志穂は、眼を瞑ることも逃げ出す事もせず、無意識の内に首から下げたペンダントに手を伸ばした。カメラを模したそれは、彼女の手に触れた瞬間、本物に変化した。
「これでも、食らえ!」
「がっ!」
志穂がシャッターを切ると、再び閃光が怪人の視界を覆う。威力は先程よりも増しており、数秒の間、怪人は全身が金縛りにあったかのように硬直していた。
「奴め! どこへ消えた!」
拘束を解かれた怪人が、辺りを見渡す。志穂の姿は既に無かった。足元には、黄色いラベルに「001 Flash」と印字されたフィルムが転がっていた。怪人はそれを拾い上げると、忌々し気に握りつぶした。
「『メモリア』……。やはり食えない奴だ!」
最初のコメントを投稿しよう!