第一話 思い出と少女

11/17

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 「食事」を終えた山羊頭の怪人が、恍惚とした表情で口元を拭う。 「許さない。よくも、桜子さんを……」    桜子の記憶のアルバムから零れ落ちた、一枚のピンぼけ写真。それを拾い上げ、立ち上がった志穂の眼は、怒り一色に染まっていた。 「おっと、食べ残しが一枚。久方ぶりの食事とはいえ、いささか上品さに欠けていたな。そこのお前も、『思い出』を手放す気は無いか? 私が食ってやろう」 「ふざけないで! 何者か知らないけど、人の思い出は、あなたのご飯じゃない!」 「ならば、力づくで食らうまで!」    羊男は鉤爪を立て、志穂に飛び掛かる。残された唯一の写真を胸に抱き、咄嗟に眼を瞑る。その刹那、眩い閃光が辺りを包んだ。 「何の光だ!?」    光が掻き消え、視界が元に戻るその時。山羊頭の怪人は我が目を疑った。恐怖に慄いていた学生服の少女は、桜色の可憐な装束を身に纏った一人の戦士として相対していた。 「えっ? これって……」    自分が身に纏う、身に覚えのない衣服と装飾を見て困惑する志穂。怪人もまた同様に、困惑の色を隠せずにいた。 「記憶の守り手、『メモリア』……。まさか、こんな時に……」 「『メモリア』って、私?」 「ならば猶更、生かしてはおけん!」    怪人が再び襲い掛かる。対する志穂は、眼を瞑ることも逃げ出す事もせず、無意識の内に首から下げたペンダントに手を伸ばした。カメラを模したそれは、彼女の手に触れた瞬間、本物に変化した。 「これでも、食らえ!」 「がっ!」    志穂がシャッターを切ると、再び閃光が怪人の視界を覆う。威力は先程よりも増しており、数秒の間、怪人は全身が金縛りにあったかのように硬直していた。 「奴め! どこへ消えた!」    拘束を解かれた怪人が、辺りを見渡す。志穂の姿は既に無かった。足元には、黄色いラベルに「001 Flash」と印字されたフィルムが転がっていた。怪人はそれを拾い上げると、忌々し気に握りつぶした。 「『メモリア』……。やはり食えない奴だ!」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加