第一話 思い出と少女

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 その間に志穂は玄関を飛び出し、アパートの階段を上へ上へと登っていた。 (どうしよう。無意識に飛び出してきちゃったけど、桜子さん大丈夫かな……)    桜子の身を案じつつも、一心不乱に階段を駆け上がる。 「それにしてもすごい、身体がこんなに軽い! しかも全然疲れない!」    先程、あのピンぼけ写真を手にした拍子に得た謎の力。それに突き動かされるように手足を動かし続け、ものの数秒で雨の降る屋上に到達した。 「あっ! こんなとこ来たら、余計にピンチじゃ……」 「その通り! もう逃げられんぞ」    遅れてやって来た怪人が、じりじりと距離を詰める。 「どうしよう。フィルムはさっき使っちゃったし、何か他に武器は……」 「それなら、いいものがあるケヨ」 「えっ、今度は誰!?」    奇怪な語尾の、ひょうきんな声。その主は、志穂の左手。彼女の愛用する、茶色いクマのパペットだった。 「わっ! あなた、写真館の……」 「熊の手だから、『クマデ』。覚えてケヨ~」    志穂の手の動きとは無関係に、自分の意思で動くパペット。しかしその動きは写真館で子どもをあやす時の、志穂の演技そのものだった。 「そんなことより、その良い物って何?」 「これケヨ」    クマデが曇り空に両手をかざすと、そこから棒状の何かが降って来た。銀色に輝くそのステッキは、先端に液晶画面のついたあのアイテム。 「えっ、これって、自撮り棒!? こんなのどうやって……」 「そんなの決まってるケヨ、こう使うケヨ」    クマデは、ステッキを手に取ると、志穂と自分を画面に納めた。 「お前達、一体何を……?」
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