0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
その間に志穂は玄関を飛び出し、アパートの階段を上へ上へと登っていた。
(どうしよう。無意識に飛び出してきちゃったけど、桜子さん大丈夫かな……)
桜子の身を案じつつも、一心不乱に階段を駆け上がる。
「それにしてもすごい、身体がこんなに軽い! しかも全然疲れない!」
先程、あのピンぼけ写真を手にした拍子に得た謎の力。それに突き動かされるように手足を動かし続け、ものの数秒で雨の降る屋上に到達した。
「あっ! こんなとこ来たら、余計にピンチじゃ……」
「その通り! もう逃げられんぞ」
遅れてやって来た怪人が、じりじりと距離を詰める。
「どうしよう。フィルムはさっき使っちゃったし、何か他に武器は……」
「それなら、いいものがあるケヨ」
「えっ、今度は誰!?」
奇怪な語尾の、ひょうきんな声。その主は、志穂の左手。彼女の愛用する、茶色いクマのパペットだった。
「わっ! あなた、写真館の……」
「熊の手だから、『クマデ』。覚えてケヨ~」
志穂の手の動きとは無関係に、自分の意思で動くパペット。しかしその動きは写真館で子どもをあやす時の、志穂の演技そのものだった。
「そんなことより、その良い物って何?」
「これケヨ」
クマデが曇り空に両手をかざすと、そこから棒状の何かが降って来た。銀色に輝くそのステッキは、先端に液晶画面のついたあのアイテム。
「えっ、これって、自撮り棒!? こんなのどうやって……」
「そんなの決まってるケヨ、こう使うケヨ」
クマデは、ステッキを手に取ると、志穂と自分を画面に納めた。
「お前達、一体何を……?」
最初のコメントを投稿しよう!