第一話 思い出と少女

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 散乱する写真に埋もれるかのように、桜子は力なく倒れていた。変身の解けた志穂は、戦闘後の重い足どりのまま彼女の元へ駆け寄った。 「桜子さん!」 「……」    桜子は彼女に抱きかかえられながら、ゆっくりと目を開ける。しかしそこに光はなく、肢体は元の温かさを失っていた。生ける屍。そんな形容が、志穂の脳裏をよぎる。 「もしかして、全部忘れて……」    志穂の瞳から徐々に雫が零れ落ち、冷たくなった桜子の頬を弱々しく打つ。志穂の脳裏には、桜子と過ごした楽しかった思い出の数々が去来していた。しかしその思い出も、もう彼女の中には無い。 「ずっと、ずっと一緒だったのに。全部忘れて、こんなになって……。そんなの、あんまりだよ……」 「大丈夫ケヨ。思い出なら、ここに」    そう言いながらクマデが差し出したのは、一冊のアルバム。桜子が捨てきることのできなかった、生まれて間もない頃の記録だった。 「そうだ、これがあれば……」 「そうケヨ。それじゃ、後は任せたケヨ」    クマデが手を振りながら掻き消える。「後は任せた」。その言葉を反芻しながら、志穂は意を決してアルバムを広げ、桜子の前にかざした。 「桜子さん、思い出して!」    アルバムの最初のページに収められていたのは、生後間もない桜子の笑顔。たくさんの愛に包まれた、始まりの記憶。 「……そうだ、私は……」    桜子の眼から、温かな雫が零れ落ちた。
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