第一話 思い出と少女

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「これが、最後に遊びに行った時の写真。あの頃はまだ学生で、なんというか、だらしない顔してたな」 「でも、いい笑顔です」 「ふふっ、ありがと」    二人は、アルバムをめくりながら思い出を回想していた。志穂はアルバムを通して、桜子の記憶を取り戻そうとしていたのだ。桜子がゴミ袋に棄てた写真は全て元通りに収められ、彼女の記憶の欠落を次々と埋めていった。 「……ごめんね、しーちゃん。『思い出は大事』っていつも言ってくれてたのに、捨てちゃうなんて……。だから、バチが当たったのかもね」 「桜子さんのせいじゃありませんよ。それに私も、同じでしたから」 「同じ?」 「叔母さんもこうやって写真を見せながら、私に思い出させてくれたんです。お父さんとお母さんと過ごしてた、あの頃の思い出を」 「えっ!? それって、もしかして……」 「……はい。私、両親と一緒にいた頃の思い出を全部忘れてたんです。七歳までずっと一緒にいたのに、おかしいですよね」 「……ううん。きっと、心を守ろうとしたんだよ。辛い記憶を忘れることで……。今の私なら、分かる気がする」    初めて聞かされた、志穂の秘密。桜子はそれを受け止めながら、優しく志穂を抱き寄せた。志穂は彼女の腕の中で懐かしい体温を感じ、ほころぶような笑顔を浮かべて呟く。 「……叔母さんが教えてくれました。両親もこんな風に、私を抱いてくれたって。海に連れて行ってくれたことも、誕生日を祝ってくれたことも。もう二度と、会えないことも……。だから、桜子さんも」    哀しみを必死で押し殺した、不器用な笑顔で見上げる志穂。そんな彼女の髪を、桜子は母のように優しく撫でる。 「大丈夫。もう思い出を捨てたりなんてしないよ。しーちゃんみたいに、辛くたって、それを背負っていこうと思う。思い出は血であり、肉なんだって、気付いたから。それに今後のことは、これから考えるからさ」 「……はい!」
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