第一話 思い出と少女

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 夕刻。晩秋の早い夕暮れが、地方都市の小さな家々を包む。その一つに、小さな写真館があった。蔵守写真館。  三角屋根とクリーム色の壁に覆われたその店は、何の変哲もない街の写真屋に見えた。入り口脇の一室に造られた、小さな喫茶店を除けば。 「ほらほら、クマちゃんも見てますよ~」  布製のバックスクリーンが垂らされた、小さな撮影室。学生服の少女が、カメラの後ろでテディベアを人形劇のように動かしている。 「くふっ、きゃはは」    七五三の和装に身を包んだ幼い男児が、あまりの可笑しさに思わず吹き出す。その様子を見て、傍らに立つ両親は安堵の笑みを浮かべた。 「すみませんね。この子、カメラ慣れしてなくて」 「いえ、大丈夫です! 素敵な笑顔でしたよ!」    その様子を、一人のスーツ姿の女性が隣室のカウンターから見つめていた。コーヒーには一切手を付けておらず、分離したミルクが液面に白く浮かんでいる。 「志穂ちゃん、凄いですね。まだ中学生なのに」 「本人が『どうしても』と言って聞かなくてね。将来はここを継ぐつもりらしいの。世の中には、もっと良い仕事がいくらでもあるのに……」    そう答える女性は、この写真館及び喫茶店の主。カップを丁寧に拭きながら、悲喜こもごもの複雑な笑みを浮かべて応える。 「いいじゃないですか。あの子にとっては、それが一番の夢なんですから」 「……そうかもしれないわね。確かに、あそこにいる時が一番輝いて見えるわ」  店主は隣室の志穂を見やる。それと同時に、彼女が振り向き笑顔で手を振った。 「叔母さん、準備できたよ!」 「はーい。しーちゃん、ごくろうさま」    店主はエプロン姿のまま、志穂と入れ替わるように撮影室に向かった。すれ違いざまのハイタッチ。手と手の触れ合う、爽やかな快音が響いた。 「あっ、桜子さん久しぶり!」 「久しぶり、しーちゃん。今日も頑張ってるね」
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