0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
夕刻。晩秋の早い夕暮れが、地方都市の小さな家々を包む。その一つに、小さな写真館があった。蔵守写真館。
三角屋根とクリーム色の壁に覆われたその店は、何の変哲もない街の写真屋に見えた。入り口脇の一室に造られた、小さな喫茶店を除けば。
「ほらほら、クマちゃんも見てますよ~」
布製のバックスクリーンが垂らされた、小さな撮影室。学生服の少女が、カメラの後ろでテディベアを人形劇のように動かしている。
「くふっ、きゃはは」
七五三の和装に身を包んだ幼い男児が、あまりの可笑しさに思わず吹き出す。その様子を見て、傍らに立つ両親は安堵の笑みを浮かべた。
「すみませんね。この子、カメラ慣れしてなくて」
「いえ、大丈夫です! 素敵な笑顔でしたよ!」
その様子を、一人のスーツ姿の女性が隣室のカウンターから見つめていた。コーヒーには一切手を付けておらず、分離したミルクが液面に白く浮かんでいる。
「志穂ちゃん、凄いですね。まだ中学生なのに」
「本人が『どうしても』と言って聞かなくてね。将来はここを継ぐつもりらしいの。世の中には、もっと良い仕事がいくらでもあるのに……」
そう答える女性は、この写真館及び喫茶店の主。カップを丁寧に拭きながら、悲喜こもごもの複雑な笑みを浮かべて応える。
「いいじゃないですか。あの子にとっては、それが一番の夢なんですから」
「……そうかもしれないわね。確かに、あそこにいる時が一番輝いて見えるわ」
店主は隣室の志穂を見やる。それと同時に、彼女が振り向き笑顔で手を振った。
「叔母さん、準備できたよ!」
「はーい。しーちゃん、ごくろうさま」
店主はエプロン姿のまま、志穂と入れ替わるように撮影室に向かった。すれ違いざまのハイタッチ。手と手の触れ合う、爽やかな快音が響いた。
「あっ、桜子さん久しぶり!」
「久しぶり、しーちゃん。今日も頑張ってるね」
最初のコメントを投稿しよう!