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「桜子さんに比べたら、まだまだです」
志穂は桜子の隣に腰かけ、屈託のない笑みを浮かべる。対する桜子の笑顔は、それとは対照的にどこか弱々しく見えた。
「叔母さんから聞いたよ。この店、継ぐ気なんだって?」
「えっ? 叔母さんそんなこと……」
志穂は赤面しながら、隣の撮影室を睨む。撮影中の彼女の叔母は、振り返らず背中にピースサインを作ってそれに応えた。桜子は口に手を添え、そんな二人を見て微笑む。
「それはその、あくまで目標です。とても叔母さんみたいな立派な人には、なれないと思うし……。でも、将来何かしらの形で、写真に関わる仕事に就けたらいいなって、思ってたりして……」
照れ隠しのためか、伏せ目がちに応える志穂。対する桜子は優しく真剣な眼差しで彼女を見つめ、「うんうん」と頷いた。
「しーちゃんはやっぱり、写真が大好きなんだね」
「はい! だって、写真は思い出そのものだから」
「思い出、か」
「叔母さんが言ってたんです。思い出は血であり、肉なんだって。人は思い出の積み重ねで出来てるから、それがなくなったら、空っぽになっちゃうって。小さい頃の私が、そうだったみたいに」
志穂はそう呟くと、胸元のペンダントを開いて切なげに手の上で転がした。その中には、在りし日の両親の笑顔が収められていた。
「……そっか。やっぱり、しーちゃんは立派だね。私なんかとは大違い」
「そんな……桜子さんだって、とても大きな会社で……」
「辞めたの。今日が最後で、今はその帰り」
「えっ!?」
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