0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
突然の告白に、理解が追い付かない。そんな志穂を、桜子は精一杯の作り笑いを浮かべて安心させようとする。
「そんな顔しないでよ。今日は私にとっての記念日なんだから。何なら、写真でも撮ってもらおうかな~」
「そんな……詳しく話してください! だって桜子さん、仕事にやりがい感じてたって、毎日が楽しいって……」
「ごめんね、嘘ついてて。でも、今日で最後だから」
吐き捨てるような言葉と、勘定の千円札を置いて席を立つ。
「今まで、ありがとね」
灰色の背中が語る、別れの言葉。煙が空に消えていくように、桜子の姿は夕闇の街に飲まれていった。ドアの鳴らす虚しいベルの音が、志穂の鼓膜を揺らした。
志穂はその場から動けず、叔母が仕事を終えるまでの間、何も言わずに立ち尽くしていた。
最初のコメントを投稿しよう!