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博多行き夜行バス
「佳子、凛子の荷物をまとめて中央バスターミナルへ行ってくれ。ターミナルに着いたら博多行きの最終夜行バスのチケットを2人分買って待っててくれ。すぐ行くから。」
俺は財布から十数枚の万札を抜き取り、残りは佳子に財布ごと渡した。
部屋を出て辺りを見回しビルの陰に身を寄せ携帯電話を取り出した。
電話帳から龍也の名前を選び発信ボタンを押す。
「何だ真吾か。丁度良かった。上村茂の事なんだけど、お前何か知らないか。」
「・・龍也。尻尾っていう連載小説知ってるか?」
「ああ。知ってる。署でも噂になってる。作者の流求は警察OBじゃないかって。それがどうした?」
「流求は俺だ。」
「なんだって?」
「流求は俺なんだ。尻尾は俺が書いてる。次で終わるけどな。上村の事は、その最終話に書く。全てわかるように書くつもりだ。」
「お前何言ってんだ。どこにいる。」
「それは言えない。とにかく、読んでくれ。いいな。」
「お前、自分が何言ってんのかわかってるのか。」
「ああ、わかってるさ。それと・・。すまなかった。お前との約束を俺は守れなかった。」
封じ込めていた言葉が口をついて出た。
「もしもし。もしもし。おい真吾。」
龍也の声が街の雑踏に溶けていく。
つまらない戯れ言を言ってしまった・・
龍也の少し間延びした第一声で、緊急配備がかかっていないことは確認できた。今、アパートに帰るのは危険だ。
ネットカフェに飛び込んだ。
タイムリミットは1時間。
「・・夜行バスの車窓に映る博多湾が朝日に光る。凛子起きろよ。朝だ。俺たちにも新しい朝がきた。・・完」
一気にタイピングして、連載小説「尻尾」の最終話を編集者のアドレスに送信する。
必ず逃げぬいてやる。
組の息のかかったレンタカー屋で白のセダンを借り、中央バスターミナルへ急ぐ。
夜行バスはトラップだ 。俺は北へ向かう。
まだ緊急配備の敷かれていない今なら、一気に都内を抜けられる。
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