2人が本棚に入れています
本棚に追加
欄干
凛子は生きていた。
奇跡だった。
凛子と佳子は刑務所の俺に度々面会に来たが、俺は会わなかった。
2人からの手紙も読まずに捨てた。
雨が降っている。
垂れた頭を上げて前を見ると、傘を差さずに、塀の側に龍也が立っていた。
「真吾、お前が俺を憎んでいたことは、わかっていた。だからこれを。」
銀色に光るペティナイフを龍也が差し出す。
「何だよこれは。これでお前を刺して、もう一度塀の中に消えろってことか。」
「それもいいだろう。だが、後は彼女の口から聞いてくれ。」
雨の向こう、車の陰から凛子が現れる。
ああ凛子。
会いたかった。
お前が生きている。
「真ちゃん」
「凛子」
凛子が紫檀色の傘を差し、ゆっくり歩いてくる。
「警察官がお店に来たあの夜、私、上村を逃がすために、そのナイフを持って走ったの。非常階段の踊り場で、警察官に追い詰められた。」
「上村が階段を降りようとした一瞬、私の方を向いて、立ち止まった。
私、その時、ナイフを正面に構え直して、無我夢中で目の前にいた警察官に向かって行った。」
「その警察官は、ナイフを避けるために私の手を払った。」
「・・そうなのか、龍也。」
龍也は何も答えない。
「あの時の警察官だった龍也さんは、私がナイフで刺そうとした事を、他の誰にも言わずにいてくれた。もちろん、真ちゃんにも。」
「・・何故言ってくれなかったんだ、龍也。」
何も答えない。
「テレビに映った上村の写真を見て、私、全部思い出した。上村に何を奪われて、何をされていたか。
真ちゃんが何故警察官を辞めたのか、やっとわかった気がした。
そしたら、上村を殺したのは真ちゃんじゃないかって・・。
私のせいで、ごめんね。
そう思ったら、生きていたくなくなっちゃって、
消えたかったの。」
「龍也、そうだったのか?」
「真吾、これがお前の尻尾さ。」
龍也がさっきのナイフをヒラヒラさせる。
「すると、俺は、お前にずっと捕まえられていたってことか。」
「必ずお前を捕まえる、って言っただろ。俺はもうお前の尻尾はいらない。彼女に返す。」
そう言ってもう一度ナイフを揺らす。
最初のコメントを投稿しよう!