欄干

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凛子は生きていた。 奇跡だった。 凛子と佳子は刑務所の俺に度々面会に来たが、俺は会わなかった。 2人からの手紙も読まずに捨てた。 雨が降っている。 垂れた頭を上げて前を見ると、傘を差さずに、塀の側に龍也が立っていた。 「真吾、お前が俺を憎んでいたことは、わかっていた。だからこれを。」 銀色に光るペティナイフを龍也が差し出す。 「何だよこれは。これでお前を刺して、もう一度塀の中に消えろってことか。」 「それもいいだろう。だが、後は彼女の口から聞いてくれ。」 雨の向こう、車の陰から凛子が現れる。 ああ凛子。 会いたかった。 お前が生きている。 「真ちゃん」 「凛子」 凛子が紫檀色の傘を差し、ゆっくり歩いてくる。 「警察官がお店に来たあの夜、私、上村を逃がすために、そのナイフを持って走ったの。非常階段の踊り場で、警察官に追い詰められた。」 「上村が階段を降りようとした一瞬、私の方を向いて、立ち止まった。 私、その時、ナイフを正面に構え直して、無我夢中で目の前にいた警察官に向かって行った。」 「その警察官は、ナイフを避けるために私の手を払った。」 「・・そうなのか、龍也。」 龍也は何も答えない。 「あの時の警察官だった龍也さんは、私がナイフで刺そうとした事を、他の誰にも言わずにいてくれた。もちろん、真ちゃんにも。」 「・・何故言ってくれなかったんだ、龍也。」 何も答えない。 「テレビに映った上村の写真を見て、私、全部思い出した。上村に何を奪われて、何をされていたか。 真ちゃんが何故警察官を辞めたのか、やっとわかった気がした。 そしたら、上村を殺したのは真ちゃんじゃないかって・・。 私のせいで、ごめんね。 そう思ったら、生きていたくなくなっちゃって、 消えたかったの。」 「龍也、そうだったのか?」 「真吾、これがお前の尻尾さ。」 龍也がさっきのナイフをヒラヒラさせる。 「すると、俺は、お前にずっと捕まえられていたってことか。」 「必ずお前を捕まえる、って言っただろ。俺はもうお前の尻尾はいらない。彼女に返す。」 そう言ってもう一度ナイフを揺らす。
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