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俺は走った。
あのごつい警官に職質されたのはいつだったか。俺を薬の売人だと疑っている。
警察官の中には、薬の匂いを嗅ぎ分ける嗅覚と薬漬けの体を見分ける視覚を持つ者がいるらしい。
そうだ。
あの職質も中央バスターミナルに架かる歩道橋で煙草を吸っている時だった。
「ここで何をしている。」
「さっきすれ違った男と何を話した。」
「ポケットの物を出せ。」
煙草の空き箱を出してやると、湿気た顔をして離れて行った。
そこまで思い出して後ろを振り返ると、ごつい警官はまだ階段を昇っている。太り過ぎだ馬鹿。
パトカーの真向かいまで走り視線を向けると、運転席のドアが開け放たれ、もう一人の警察官が警察無線のマイクに向かってがなり立てている。
何を言っているのか、車の排気音にかき消されわからない。
アパートでひっかけたコップ1杯のバーボンが万年アルコール中毒の臓腑を駆け巡り体が軽い。
俺はビルの谷間を走った。
見ろよ。
さながら夕日の朱色に体を染めるチーターだ。
トゥルルル、トゥルルル
「もしもし、真ちゃん?」
「佳子、迎えに来てくれ。お巡りに追われてる。」
「どうして警察官に?」
「いいから、すぐ来てくれ。 」
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