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姉妹
一斉摘発の5時間前、警視庁の会議室で摘発事実のミーティングが行われた。
彼女の名は凛子。
彼女が逃がそうとした男は上村 茂。
頬の傷は上村が付けたものだった。
彼女は街金で負った父親の借金のかたに、20歳で客を取らされている。
あの雑居ビルの暗い店で、客は酒を飲み、興が乗れば店の奥に消え、1パケ1万円の覚せい剤を打ち、女を抱く。
A4の紙に印字された覚せい剤譲渡の相関図には
上村の情婦か?
という無機質なパソコンの文字とともに、彼女が背負っている重い過去が描かれていた。
唯一希望の光のように、「妹佳子」の文字が、相関図の枠線から2センチ離れて書かれていた。
ストレッチャーに乗せられた彼女が救命救急室の扉の向こうへ消えて行った。
茫然と立ち尽くしていると、後から来た警察官に声をかけらた。
振り向くとセーラー服姿の少女が立っている。
「容疑者の妹だ。」
その一言に、少女の顔が強張る。俺は少女に近付き話し掛けた。
「お姉さんはきっと大丈夫だ。心配しなくていいからな。」
「・・はい。」
「それから、お姉さんは容疑者なんかじゃない。事件とは無関係だ。余計なこと、考えなくていいから。」
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