しだれ桜

1/4
前へ
/18ページ
次へ

しだれ桜

少し開けた窓から、初春の風が吹きカーテンを揺らしている。 彼女は半身を起こし文庫本を読んでいた。 うつむき加減の頬に、ひきつれた傷痕が浮かんでいるが、静かで美しい横顔だ。 堪えきれなかった。 「元気になられたようですね。」 「あなたは、あの時の警察の方、ですよね?来ていただけると思っていませんでした。」 「ちょっと忙がしくしてたものだから。それより、無事でよかった。」 「ほんとにありがとうございました。 まだ立てないものですから、こんな格好で申し訳ありません。」 「そんなこと、気になさらないで下さい。」 「今日はお仕事、お休みですか?」 「あ、いや、自営業に変わったっていうか?」 「え?」 文庫本がちらりと目に入る。 「警察は辞めました。今はちょっとした文章を書く仕事をしています。物書きだから、自営業とは言わないな。なんて言うんだろ。自由業かな。」 「あら。」 咄嗟についた嘘だった。 クスリと笑った彼女の横顔から目が離せない。 そうだ。 君は日だまりで笑っている方が、ずっと似合っている。  
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加