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しだれ桜
少し開けた窓から、初春の風が吹きカーテンを揺らしている。
彼女は半身を起こし文庫本を読んでいた。
うつむき加減の頬に、ひきつれた傷痕が浮かんでいるが、静かで美しい横顔だ。
堪えきれなかった。
「元気になられたようですね。」
「あなたは、あの時の警察の方、ですよね?来ていただけると思っていませんでした。」
「ちょっと忙がしくしてたものだから。それより、無事でよかった。」
「ほんとにありがとうございました。 まだ立てないものですから、こんな格好で申し訳ありません。」
「そんなこと、気になさらないで下さい。」
「今日はお仕事、お休みですか?」
「あ、いや、自営業に変わったっていうか?」
「え?」
文庫本がちらりと目に入る。
「警察は辞めました。今はちょっとした文章を書く仕事をしています。物書きだから、自営業とは言わないな。なんて言うんだろ。自由業かな。」
「あら。」
咄嗟についた嘘だった。
クスリと笑った彼女の横顔から目が離せない。
そうだ。
君は日だまりで笑っている方が、ずっと似合っている。
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