その肩に

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「近隣遠方の諸国が騒がしい。わしは各地を鎮めたい。穏やかな暮らしをしたいのだ。以前からそう思っていた」 「そのために、戦をするのだと」 「わしの中の血が騒ぐでな」 「ですが兄様、戦をすれば親を亡くす子、子を亡くす親が出る。憐れなことはしたくない。そのようにおっしゃっていたではないですか。できることなら避けられないだろうかと思案しておられたのは兄様です」 「昔のことは、忘れたな」  兄様に当てつけるように、わたくしはあからさまな吐息を漏らしました。 「殿は変わられた。周りの者たちが狼狽えております。病が若様を変えてしまわれたと」  主に言えぬ家臣に代わり、苦言を呈しました。すると兄様はわたくしの言葉を受けて、目をゆるりと細められました。 「変わったと申すか」  可笑しそうに、小さく一つ笑われます。 「父上のように、元ある土地を護るだけではいけないのでしょうか」  父上のように。  兄様と父上は相前後して、摩訶不思議な病に罹られました。先に倒れた兄様は人事不省に陥られました。飲まず食わずで五日間。生きる屍の如く眠り続けられたのです。  兄様は六日目に目を覚ました。  粥をすすりました。それから血の滴り落ちる生肉を欲しました。貪り喰われました。  八日目には馬を繰り、山野を駆け抜けておられました。  兄様の快癒を見届けて安堵したのでしょうか。父上が病を得られました。  兄様と同じように、突然、お倒れになられました。呼びかけても、まったく返答がありません。  ですが兄様が患った病とどこも違わないように思われました。兄様のようにしばし、見守っておれば良い。皆でゆるゆると傍についておりました。  数日経てば目を覚ます。  わたくしたちは何一つ、疑わずにおりました。
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