その肩に

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 父上は倒れて半日ほどで息を引き取られました。皮膚が白い粉を吹き、しわしわと干涸らびていきました。臓腑が内で腐り、体の外へとずるずる溶け抜けて出てゆきました。  僅か半日で、体がみるみる変化したのです。まるで幾年も寝込んでいたかのように衰弱した父上は、呆気なく腐り果て、息絶えました。  父上の死去とともに、兄様も一変しました。父上の死去を見届けた兄様はそのとき、温厚な今までの殻を脱ぎ捨てられました。無慈悲な兄様となられました。  兄様のお姿を、本来の性が現れただけであると家臣は思うようになりました。豪傑であった父上に頭を抑えられていた。萎縮していたのだと話す声を小耳に挟んでもいます。  硬いサナギに身を潜めておられた。サナギの殻を破り出たとき、思わぬ己を見つけたのだと、皆が噂しました。  兄様もご自身に驚いていたようです。  わしは大きな翼を持っていたのか。  知らず隠していたのか。  驚愕しておられました。  それが確固たる自信へと繋がったようです。試しに隣の領地に進撃してみれば、呆気なく我が物となりました。  軟弱な跡取りとして侮っていたせいだ。  負けた敵将が、領地を奪い返そうと、戦を仕掛けてきました。兄様は見事に敵将を打ち負かしました。  攻めてきた隣国の城主は領土を取り戻すところか、領有地の大部分をもぎ取られることとなりました。  そののち隣国は他方からも攻め入られ、隣国は消滅、城主の妻子もろとも散り散りと成り果てたそうです。  領地が少しばかり増えただけでは、兄様は満足なされません。わたくしに野望を聞かせられます。 「織田のカブキ者が少々五月蝿いと聞く。わしが勢力を伸ばせばいずれ相まみえよう。ぶつかり合うこととなる。それまでにもっと力をつけておきたい。おまえは、そうは思わぬか。……その顔付きでは、思っておらんようだな」  兄様の問いかけに、わたくしは眉をひそめて、そっと笑んで見せました。 「わしはこの身を得て、人生が一変した。おまえもわしのようになれば、きっとわかるであろう。そう思うてな」  高らかにポンっと手を鳴らされました。すると庭先の暗闇から、一人の老婆が現れました。  兄様に礼一つ取ることなく、ススススっとわたくしたちに近づいてまいります。
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