その肩に

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「おまえもわしのようになれ。さすれば時にかかずらうことなく、歌でも絵でも、思う存分好きなように極められるぞ」  兄様の手がわたくしの両肩へとまいりました。わたくしの胸の前まで手を伸ばした兄様が、逞しい腕でわたくしの体を締め付けてきました。  兄様が、わたくしを拘束なさったのです。  身動き取れなくなったわたくしのまぢかに老婆が歩み寄り、手を差し伸べてきました。  老婆の指先から。  稲妻のような閃光が。  真っ白で眩く。熱く赤い。  わたくしの体の内に。  夏の日の熱波のような。  否。  それ以上。  焼け焦げるような烈風が。  臓腑を困惑させるように吹き込んできます。  燃えている熱さ。その凄まじさ。  血が沸き立つような。  頭が。  何?  どうなって……。  わたくしは目を閉じたまま。  開けたくても開けられません。  わたくしは濡れ縁に、崩れるようにくたりと体を横たえてしまいました。  微かに意識のあるわたくしは、濡れ縁からわたくしの居室へと、兄様の腕に抱えられて運ばれていきました。  わたくしの体。  まったく力が入りません。  指一本、動かせないのです。  体がこんなにも弛緩しているというのに、意識は途切れておりません。  何が始まるというのか。  濡れ縁から見上げていた月のように、頭の裡が冴え冴えとしてきました。  寝具に横たわるわたくしの頭の中へと、語りかける兄様と老婆の声が染み込んできます。  沸騰しかけていた頭の中がしんしんと冷え、澄み渡っていました。  何も心配することはない。兄のように六日目には目を開けられるであろう。  七日目には起きられ、動ける。  八日目には体中に気が漲る。  それ以降は何事も己がままに運ぶ。  諸国のあらゆる者たちから崇め奉られることを望むなら、それすら可能。 「わたいの気をたんまりと注いだ。わたいは半日もせんうちに死ぬ。そいで、あんたは妹が、わたいが先人から連綿と継いできた濃厚な気を、この娘が上手く取り入れたことを知る」 「わしはおまえの気を継いだ。わしと妹。二人に気を与えたおまえは死ぬるか。わしの父親のとき、おまえの伴侶はどうしてやり損なったのだ」  兄様が老婆に詰問されました。  
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