5人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「おまえもわしのようになれ。さすれば時にかかずらうことなく、歌でも絵でも、思う存分好きなように極められるぞ」
兄様の手がわたくしの両肩へとまいりました。わたくしの胸の前まで手を伸ばした兄様が、逞しい腕でわたくしの体を締め付けてきました。
兄様が、わたくしを拘束なさったのです。
身動き取れなくなったわたくしのまぢかに老婆が歩み寄り、手を差し伸べてきました。
老婆の指先から。
稲妻のような閃光が。
真っ白で眩く。熱く赤い。
わたくしの体の内に。
夏の日の熱波のような。
否。
それ以上。
焼け焦げるような烈風が。
臓腑を困惑させるように吹き込んできます。
燃えている熱さ。その凄まじさ。
血が沸き立つような。
頭が。
何?
どうなって……。
わたくしは目を閉じたまま。
開けたくても開けられません。
わたくしは濡れ縁に、崩れるようにくたりと体を横たえてしまいました。
微かに意識のあるわたくしは、濡れ縁からわたくしの居室へと、兄様の腕に抱えられて運ばれていきました。
わたくしの体。
まったく力が入りません。
指一本、動かせないのです。
体がこんなにも弛緩しているというのに、意識は途切れておりません。
何が始まるというのか。
濡れ縁から見上げていた月のように、頭の裡が冴え冴えとしてきました。
寝具に横たわるわたくしの頭の中へと、語りかける兄様と老婆の声が染み込んできます。
沸騰しかけていた頭の中がしんしんと冷え、澄み渡っていました。
何も心配することはない。兄のように六日目には目を開けられるであろう。
七日目には起きられ、動ける。
八日目には体中に気が漲る。
それ以降は何事も己がままに運ぶ。
諸国のあらゆる者たちから崇め奉られることを望むなら、それすら可能。
「わたいの気をたんまりと注いだ。わたいは半日もせんうちに死ぬ。そいで、あんたは妹が、わたいが先人から連綿と継いできた濃厚な気を、この娘が上手く取り入れたことを知る」
「わしはおまえの気を継いだ。わしと妹。二人に気を与えたおまえは死ぬるか。わしの父親のとき、おまえの伴侶はどうしてやり損なったのだ」
兄様が老婆に詰問されました。
最初のコメントを投稿しよう!