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「おまえの伴侶、老爺がしくじり父は死んだ。あいつは父の気を吸い、若返り、いずこへともなく逃げ去った。……妹は、大丈夫なのだろうな」
「あん人は、この世にまだ未練があったんやろな。長いこと生きとった夫やと思うていたが気を吸うんが下手で、まんだ二百年も生きておらんかったんかも知れん。そやから騙したんやろ」
「おまえは騙さないのか」
「身分が上のもんを騙すんは面倒や。若返るだけなら、平民の娘にするわさ」
「わしに気をくれた。だがおまえは死ななかった。気を分け与えられるのは、二人までか」
「薄い気なら、何人でも分けられる。そやけどな、あんたらには濃いもんをあげるっちゅうんや。わたいの中の気が代替わりをせっつくんでな。しゃあないわ。わたいはこれで終い。あんたの妹がわたいの気を受け継いでくれる。わたいは本望や」
「わしと妹とで、おまえ一人分か?」
「さて、どうやろな。どっちがより濃い気を持てたか。それはこの子が動き出さんとわからんことやで」
「どちらか一方に濃い気を与えたと?」
「それはわたいがどうこうできるもんやない。気そのものに心があるかどうかは、わたいも知らん。そんでも、同じようには分けられた気がせん」
「では、わしに濃い気が与えられた。残りが妹にたった今、注がれた。そうだな」
「武勇を聞けば、そうかも知れんな」
兄様は断崖絶壁ものともせず、巧みな手綱さばきで、馬を駆けさせて勝利しておられます。
「そうか。ようやった。安心せい。おまえから継いだ気を大切にする。重荷を降ろして、ゆるゆると土に還るがよい」
「そうさせてもらいますわ。長生きに飽きたら、わたいのように誰かに気を移すことや。それ、忘れんようにな」
「婆、わしらに与えた気に、名前などあれば、聞かせておいてくれ」
「名か。そうやな。敢えてつけるんなら。気鬼」
「鬼と」
「何を今さら驚くんや。神さんの気、とでもゆうて欲しかったんか?」
「武勇を誇る神仏がおられる」
「そやったな。荒ぶる神さんや仏さんがおるな」
「父に乗り移ろうとしていた老爺の気は、神仏の気を匂わせておったそうな」
「そうでも言わんと、あんたらのてて親でもさすがに実の息子で試そうとは、せんかったやろ」
魑魅魍魎を体内で養うまでの甲斐性はなかった。老婆が父上を嗤いました。
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