その肩に

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「わしは、父の試し台だったのか」 「わたいはそう聞いとるぞ。鬼と合わさり損なうと、体が急に腐り始める。てて親がそれを知っとったら、わたいらを招き入れて、人智を越えるもんを体ん中に取り込もうなぞ、思わんかったやろな」 「なぜに言わなんだ?」 「乗り移ろうとしても、腐りよるもんが多い。人の体は脆いでな。年老いて、気ぃ吸って少し若こうなって。また年をおう。何百年も繰り返すと、さすがに飽きる。そろそろこの世からお暇しとうとも、気に入る移れる体がなかなか見つからん」 「婆がわしで試したのを父が見ていた?」 「満足しておったぞ」 「だが己のときにしくじった」 「わたいの気では厭やと、あんたらのてて親がごねたせいや。あんたに女のわたいの気を入れてみて。具合よういったら、爺の気を己と下の坊に入れる手筈やった」  兄様が「むう」と、呻られました。  誰がこの鬼どもを城に招き入れたか。首謀者がわかったからです。  兄様とわたくしは正妻が産んだ子。  その母はわたくしの妹を産んだときに、妹もろとも命を落としました。それ以来、側女は数人もおりますが、正妻はおりません。  そして、その側女らには息子が数人おります。兄様が亡くなられたときに跡目争いが起きると囁かれています。  おっとりとして情け深かった兄様。  鬼を自分の子に憑かせ、頼りないと思われていた兄様を、腕力で退かせようと密かに謀が為されていたのでしょう。  それとも、嫡男を奮い立たせようと、家臣の誰かが仕組んだのでしょうか。  鬼の存在を知った父上が兄様で試された。上手くいけば嫡男も自分も強くなります。  兄様で失敗すれば鬼付き爺婆を城から追い出せば、済みます。側女の子を跡取りとすればいいだけです。  両者の思いが合致してしまいました。城主を誑かし、嫡男に鬼を憑依させました。  父上と側女らの奸計が。  見事打ち砕かれました。  試し台の兄様が、ご立派になられました。  あと僅かなときで死ぬという鬼の婆が、暮らしていく上で気をつけることを、兄様に伝授し始めました。  人のように、鬼もそれぞれのようです。  最強の鬼とそうでない鬼がいると。  老婆は語り始めました。
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