その肩に

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 脆弱な鬼がいる。  最強の鬼もいる。  けれど、強靱な気を持つ鬼であっても、ふとした瞬間、気が弱まる。そのまま衰弱していく。  気の遠くなるほどの太古から生きてきた。時の狭間でたゆたうことに疲れた。気を捨て、人として死ぬことを選ぶ。  だが、いざそのときが来て。  乗り移る者を目の前にして。  もう少しだけ生きたくなってしまう者が出てくる。それは仕方ないこと。人である以上、誰でも気が変わる。鬼付きであっても元は人なのだから。  鬼付きとなれる。  思い、覚悟を決めて応ぜようとする者は、別の覚悟をも強いられることとなる。鬼付き人のエサとなる覚悟だ。  気を与える振りをして騙し、気を吸い尽くす。そしてとっとと逃げ出す。  吸われた者が意識を取り戻すのは数日後と、近しい者に伝えておく。  気を無くして体が腐り始めていたとしても、気づかない。鬼付きとなるための変化だと思い込む。  鬼に騙されたと気づき、あとを追おうとしても、もうはるか彼方まで逃げている。  まこと鬼はどうしようもないものである。だが一旦、鬼付きとなれればしめたもの。悠久のときを楽しむか。適当に遊び、飽きたら人として死ぬか。好き勝手に生きられる。  老婆はそう言い、笑いました。 「若返りたくなれば、若いもんの気を吸いや。好きなだけ、若こうなれるでな」  兄様は鬼の気と人の気が上手く融合しているそうです。数年経てば、父に悪さした鬼付き爺のように、人から気を抜き取ることができるようになると申します。  鬼を失った老婆が、兄様を慈しむように目を細めました。 「わしは、鬼付きか。しかし人であるな」 「もう人ではないぞ。ほとんど鬼さね」  鬼が、兄様の気に溶け込んでしまっていると言います。もう鬼のことは意識できないだろうと言うのです。 「お婆。わしが死ぬときは、わしが選べるのだな。人として死ぬるな」 「若返りを繰り返して体が傷んできたとき。体ん中でおとなしゅうしとる鬼が起き出して暴れることがあるそうな。そやが、たいていわたいみたいに、生きるのに飽きる。そのときが移り時。時期はあんたが決めりゃええ」 「人の気はどうすれば吸えるのだ」  兄様が老婆に詰め寄りました。
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