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いくら行ったことが無い場所に足を踏み入れて目新しいものを次々目の前にしたところで、嗅いだことの無いにおいを嗅ぎ、そして感じたことの無いような感情を抱いたところでその夜の、彼女の夢の中にいる彼の見る光景やその人を取り巻く状況はもう既に見たものばかり。
同じ夢を見てしまうんだね。
そうなってからもう長いことそうなの。何回も何十回も、あるいはそれ以上を繰り返したなら彼女はこんなことを考えてしまうかもしれないわ。死というものはこういう感覚なのかもしれない。
死?
同じ夢を何度繰り返したものかわからない感じ。ある危機感を抱いた彼女はノートを買うかもしれないわ。
ノートを買い、夢の内容を記すのかな。それを見た回数も。
記すものの、それを見返した時に思い返す夢の感覚もいつの頃からかなんだか味気ないものになって行ってしまうかもしれない。
彼女は見る夢の意味を忘れてしまうのではと思ったりするんだね。
なぜかそう思うのだもの。そもそも夢っていうのは忘れやすいものじゃない?ノートを見ても何も感じないようになって、これほどまでに時間をかけて来たその旅の意味ももう分からない。そうなってしまうのが恐いのよ。
眠れないとかそういうことではなく?
眠れないならそれでもいい。眠っても見た夢が同じならいっそ眠らない方がいいのだわ。
彼女はどうしたらいいだろうね。
さあ。でもそうなった彼女はいつしか旅をやめてしまいそう。なにをやっても夢が進まないんだもの。・・いいえ、もしかすると彼女はわざと旅をやめてしまったかしら。
わざと?
彼女は以前から夢の中の彼の状況が悪くなっていくことに気づいていたの。
そうしながら彼女は夢を進めざるを得ない。
彼女には目的があるからね。でもそうしている間に彼を取り巻く状況はどんどん危うくなっていき・・。その場面のその直前でね、彼女は夢の材料の回収作業をやめ、夢の進行を止めるのよ。目なんかつぶってしまうかもしれないわ。
眼を瞑ってどうなる?
眠くなってしまうわ。
彼が死に至る直前の夢を繰り返し見続ける。そうだとしたら悲しいね。
ええ、彼女は・・。
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