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夢に出てくる人というのは日常生活で目にした人になるだろう?身近に接している人や遠目にした他人の誰か。写真やテレビで見たようなだけの人でもいい。
言わば現実において目で見たってことね。わかるわ、そういうものよ。
彼女もまたその様にわきまえていたものだからこそ彼のことが気になってしまった。
そんな言い方をされてもまあギリギリわかるわね。彼女が彼のことを気にしたのは彼がそういった人の内に入らないと、そういうことを言いたいのでしょう?もう言いぶりからでもってそうなのよ。
彼女が見て来たという無数の夢に登場してきた様々なの人たちの内、唯一その男性だけは彼女にとって心当たりがない人だったんだ。
ちょっと不思議ね。
見たことが無いような人物が果たして夢の中に現れるだろうか。
彼女もそう思ったのね。日々彼女はそのことについて考えたり仕事に追われては忘れたりしたのかしら。そしてすっかり忘れた頃に夢に彼が出てくるとまた考えに更けってみたり。
そういういう感じ?
そうした日々を経たある日のこと、自身の日常を彼女は終わらせることにした。
日常を終わらせる?でも命を終わらせるわけでは無いみたいね。
例えば?
そうね。仕事を辞めたかもしくは友人関係をすべて切ったとか、それとも住む場所を離れるとか。もしくはそう、旅に出たのよ。
彼女はこれまでの日常で関わってき人たち、特に友人などがいたとしたなら彼ら彼女へはそうする理由を告げることはしなかった。
そうね。それは言い辛いことかもしれないわ。夢の中に出て来た男性が誰だかわからないからってそれを理由に旅を始めてしまうなんてね。ちょっと恥ずかしくて口には出せないわ。
彼女がそう思ったと。
私ならそう思うということ。会ったことも無い人を探しに行くなんて無謀でもあるもの。
探しに行く?
彼女は夢で見た心当たりの無い彼に運命を感じ、現実の世界でその彼と出会おうとしたものよ。きっとそこに。旅の日々を経てたどり着いたどこかの都市か村の滞在先のすぐそばででも。
そう考えるもの?
ええ、誰であったってそう。
全ての人が?
殆どそう。彼女はそうじゃない人?
彼女は彼に会うために旅を始めたと言うならそうかもしれない。だが彼女は現実において彼が存在するものと思っていたかどうかと言えばそうとは限らないようだ。
どういうこと?存在しないと思っている人に会いに行く?
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