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それも彼女が別れを告げたであろう人たちに旅の目的を伝えなかった理由かもしれない。彼女は人に言っていなかったことがある。彼女は実のところ数ある夢なんて見てきてはいないんだ。人と同じようにそれら無数の夢を見て、そして忘れて来たわけじゃない。彼女はそういった意味で変わっているし彼女もそう自覚していた。
彼女は人と違ってどうだと?
本当に初めのはじめからこれまで見てきた夢が全部同じ。いいや、その内容は全て同じというわけではないのだが、場面、状況、景色は違ってもそれらはいつも彼に関するものだったのさ。
彼女は彼に関する夢だけをこれまで見て来たと言うこと?
そう。彼女がずっと見てきたそれらの夢の主体者は彼なんだ。
まあ。でも待って。それでもわからないわ。彼女は現実の彼を探すのでないならそのの旅は何のため?聞かなければわからないことよ?それって。
彼女は彼の夢をより先に展開させて行こうとしたんだろうね。要は彼の夢をもっと見ようとしたんだ。
彼の夢、いいえ、彼女が見る彼のそれはいつしかいつも同じ内容のものだったり、場面が進まず同じ展開の繰り返しがあるだけだったりしたのかしらね。それがどうしても嫌になって彼女は彼の夢の展開をより進めていくために旅に出たと。
これが彼女が考えたことさ。
夢は所詮現実に生きる肉体と記憶がもたらすもの。彼女はまたよくわきまえていたのね。
そう。
夢に出てくる場面、展開、情景をより多く、進むべき状況があるのならそれを夢に見ることが出来るよう彼女は旅に出ることで、日常の繰り返しでは見ることや聞くことや感じることが出来ない色々を体験しようとしたということね。
変わっているだろうか?
彼女が置かれた状況がとても変わったものだもの。私だって同じ境遇にいたなら自然とそういった発想になったかもしれないわ。少なくとも彼女のその一連の考えに共感できないことは無いしむしろ、合理的な判断をしたようにさえ印象づいているくらい。もしかしたら私もまた変わっているのかもしれないけれどたぶん違う。でもそうでもないのかしら。彼女の考えは分かったものの、そのために旅に出るというのはなんだかそれに関してはあれね。
君だったら違う?
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