2人が本棚に入れています
本棚に追加
「お、コースケの言うとおり、広くてキレイなケーキ屋に生まれ変わったね!」
私は、私より頭ひとつ背の高いコースケの背中をばしばしと叩いて誉める。
私たちは新装開店した店内をぐるりと眺める。たくさんのケーキが並ぶショーケース、職人さんたちがせわしなく動き回る厨房、白で統一された喫茶スペース……どれもが光り輝いているようだった。
「おう……イートインスペースもできたからゆっくりできる」
コースケは、ずり落ちた眼鏡を中指で押し戻しながら店内を見渡す。
「一番奥の席にしようか? アキ姉?」
「そだね! 隅っこならお互い勉強に集中できるもんね」
「勉強するのはアキ姉だけです」
「……はい、そのとおりです」
私たちは先に荷物を席に置いて、ケーキを選びにとりかかろうとした。
「アキ姉は勉強の準備してて。俺が注文してくるから」
「え、え、私もケーキ選びたいよぉ」
「アキ姉は時間かかりすぎるからな。それに頼みたいのはわかってるつもりだから」
うう、コースケはオンナゴコロがわかってない……あれやこれや見て味を想像して、どれにするかさんざん迷うのが楽しいのに。
仕方ないので、椅子に腰掛けてシュンと小さくなりながらコースケを待った。
ほどなくして、私の目の前に色とりどりの様々な果物と生クリームの乗ったタルトが2つ並べられた。私が一目見てくぎ付けになったタルトだ!
「わあ、何でわかったの?」
「ショーケース見てるとき、こればっかり見てたからな、アキ姉」
さすがコースケ、私のことをよく見てる。えらいぞ!あとは私の大好きなミルフィーユを持ってきておくれ!
「ほら、アキ姉もさっさとノートと参考書広げないと。アキ姉の場所がなくなるよ」
「え?ちょ、どんなけ持ってくる気?」
「テーブルに乗るだけ」
コースケはにこっと笑いながらそう言うと、再び新しいケーキを取りに歩き出す。
「鬼だわ、あいつ鬼だわっ」
私はペンケースから取り出したシャープペンをギリギリと握りしめ、歯ぎしりしてしまう。しかし、コースケの言うことが正しいのは認めざるを得ないので、私はお気に入りの虹色肩掛けバッグから、急いでノートと学校指定の数学の参考書を取り出す。
私のテーブルには、ノートの空きページと参考書のページが開かれていっぱいになる。
最初のコメントを投稿しよう!