待てぬなら、やるしかないか、トホホギス

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「お、コースケの言うとおり、広くてキレイなケーキ屋に生まれ変わったね!」  私は、私より頭ひとつ背の高いコースケの背中をばしばしと叩いて誉める。  私たちは新装開店した店内をぐるりと眺める。たくさんのケーキが並ぶショーケース、職人さんたちがせわしなく動き回る厨房、白で統一された喫茶スペース……どれもが光り輝いているようだった。 「おう……イートインスペースもできたからゆっくりできる」  コースケは、ずり落ちた眼鏡を中指で押し戻しながら店内を見渡す。 「一番奥の席にしようか? アキ姉?」 「そだね! 隅っこならお互い勉強に集中できるもんね」 「勉強するのはアキ姉だけです」 「……はい、そのとおりです」  私たちは先に荷物を席に置いて、ケーキを選びにとりかかろうとした。 「アキ姉は勉強の準備してて。俺が注文してくるから」 「え、え、私もケーキ選びたいよぉ」 「アキ姉は時間かかりすぎるからな。それに頼みたいのはわかってるつもりだから」  うう、コースケはオンナゴコロがわかってない……あれやこれや見て味を想像して、どれにするかさんざん迷うのが楽しいのに。  仕方ないので、椅子に腰掛けてシュンと小さくなりながらコースケを待った。  ほどなくして、私の目の前に色とりどりの様々な果物と生クリームの乗ったタルトが2つ並べられた。私が一目見てくぎ付けになったタルトだ! 「わあ、何でわかったの?」 「ショーケース見てるとき、こればっかり見てたからな、アキ姉」  さすがコースケ、私のことをよく見てる。えらいぞ!あとは私の大好きなミルフィーユを持ってきておくれ! 「ほら、アキ姉もさっさとノートと参考書広げないと。アキ姉の場所がなくなるよ」 「え?ちょ、どんなけ持ってくる気?」 「テーブルに乗るだけ」  コースケはにこっと笑いながらそう言うと、再び新しいケーキを取りに歩き出す。 「鬼だわ、あいつ鬼だわっ」  私はペンケースから取り出したシャープペンをギリギリと握りしめ、歯ぎしりしてしまう。しかし、コースケの言うことが正しいのは認めざるを得ないので、私はお気に入りの虹色肩掛けバッグから、急いでノートと学校指定の数学の参考書を取り出す。  私のテーブルには、ノートの空きページと参考書のページが開かれていっぱいになる。
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