第一章 おはよう

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誰かが泣いている。 でも泣き声は聞こえない。 それが余計に悲しい。 小さく震えている肩が、零れる涙が、まわりの空気ごと震わせてまるで悲しい色のベールに包まれているみたい。 泣かないで。 私はここにいるよ。 ずっと一緒にいるよ。 小さな頭に手を伸ばして、そっと柔らかな髪ををなでる。 すると、やっとその子は泣くのを止めて、茶色いビー玉みたいな瞳を私に向けた。 そしてその小さな唇が私の名前の形になる。 「……」 その声を聞こうとして、顔を近づけて耳を澄ませた…。
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