1 天才イケメン高校生作家、締め切りより逃亡する

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「あー、何もやる気しねえー」  俺は自分の部屋、自分の椅子でぐでーっとひっくり返っていた。目の前のパソコンには一文字も打ちこんでいない。  俺の名前は三国康博(みくに やすひろ)。天才イケメン高校生ハードボイルド作家である。  ん、自意識過剰?  妄想でも中二病でも何でもない。事実だ(断言)。  事実、こんなだらけた格好でも美形度は減ってない。美しいって罪だな。  ちなみに顔出しはしてない。トラブル起こしたくないし、顔で売ってるって言われるのも嫌だ。ちゃんと実力で売れてるんだからな。  ……が、まぁ、なんだ。天才にもスランプってものはある。  現在締め切り一日前、絶賛デッドライン。  パソコンは完全空白真っ白け。  あっはっは。  乾いた笑いを浮かべ、決めた。 「めんどくせぇ。頭働かねえ。何もしたくない。よし、寝よう」 「おいコラ。ふざけんなクソ兄貴」  スパ―ン。  ノックもせずに侵入してきた妹に頭ひっぱたかれた。手加減ナシ。  がばっと起き上がって文句を叫ぶ。 「おいっ、依香(よりか)! お前は兄に対する敬意ってもんがねーのか!」 「尊敬できる兄なら言われずともやってやる。あたしは担当さんから頼まれてんだ、ちゃんと兄貴に締め切り守らせるようにな」  俺は男っぽい言葉遣いの妹を睨んだ。  ポニテ・眼鏡・毒舌と堅物委員長タイプな依香は実際真面目で、それゆえ俺の監視役を自任している。 「締め切り真面目に守る作家なんていねーよ」 「あたしは守ってる。担当さんだって余裕みた日付だろうが、不測の事態があるかもしれない。余裕持って仕事しろ」 「なこと言ったってさぁ、俺の専門はハードボイルドだぜ? 他ジャンル書けるかよ」 「だったら初めから受けるな」 「付き合いってもんがあんだよ。それに、いざとなったらピンチヒッターいるしな?」  俺が口の端を上げてみせると、依香は眉を吊り上げた。 「いやー、どんなジャンルでも、傑作は無理だけどそれなりに見られるものなら書ける原作者・代筆がいると楽だ♪」 「あたしは女性向け漫画原作者だっ。兄貴の後始末係じゃない!」 「いてぇ、グーで殴るなよ! あーあ、結衣ならこういう乱暴なことは絶対しないのに」  下の妹の名を出す。 「黙れ。この限定シスコンナルシスト」 「何だそれ」
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