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「あー、何もやる気しねえー」
俺は自分の部屋、自分の椅子でぐでーっとひっくり返っていた。目の前のパソコンには一文字も打ちこんでいない。
俺の名前は三国康博(みくに やすひろ)。天才イケメン高校生ハードボイルド作家である。
ん、自意識過剰?
妄想でも中二病でも何でもない。事実だ(断言)。
事実、こんなだらけた格好でも美形度は減ってない。美しいって罪だな。
ちなみに顔出しはしてない。トラブル起こしたくないし、顔で売ってるって言われるのも嫌だ。ちゃんと実力で売れてるんだからな。
……が、まぁ、なんだ。天才にもスランプってものはある。
現在締め切り一日前、絶賛デッドライン。
パソコンは完全空白真っ白け。
あっはっは。
乾いた笑いを浮かべ、決めた。
「めんどくせぇ。頭働かねえ。何もしたくない。よし、寝よう」
「おいコラ。ふざけんなクソ兄貴」
スパ―ン。
ノックもせずに侵入してきた妹に頭ひっぱたかれた。手加減ナシ。
がばっと起き上がって文句を叫ぶ。
「おいっ、依香(よりか)! お前は兄に対する敬意ってもんがねーのか!」
「尊敬できる兄なら言われずともやってやる。あたしは担当さんから頼まれてんだ、ちゃんと兄貴に締め切り守らせるようにな」
俺は男っぽい言葉遣いの妹を睨んだ。
ポニテ・眼鏡・毒舌と堅物委員長タイプな依香は実際真面目で、それゆえ俺の監視役を自任している。
「締め切り真面目に守る作家なんていねーよ」
「あたしは守ってる。担当さんだって余裕みた日付だろうが、不測の事態があるかもしれない。余裕持って仕事しろ」
「なこと言ったってさぁ、俺の専門はハードボイルドだぜ? 他ジャンル書けるかよ」
「だったら初めから受けるな」
「付き合いってもんがあんだよ。それに、いざとなったらピンチヒッターいるしな?」
俺が口の端を上げてみせると、依香は眉を吊り上げた。
「いやー、どんなジャンルでも、傑作は無理だけどそれなりに見られるものなら書ける原作者・代筆がいると楽だ♪」
「あたしは女性向け漫画原作者だっ。兄貴の後始末係じゃない!」
「いてぇ、グーで殴るなよ! あーあ、結衣ならこういう乱暴なことは絶対しないのに」
下の妹の名を出す。
「黙れ。この限定シスコンナルシスト」
「何だそれ」
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