2 天才イケメン高校生作家、バイトへ行く

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2 天才イケメン高校生作家、バイトへ行く

 都内某所、東探偵事務所。  ……と看板には書いてあるが、実態は違う俺らのバイト先だ。  眼鏡の少年がサッカーボール蹴らないし、祖父の名にかけて謎に挑む少年もいない。  ここは表と裏の社会のバランスを保つための第三者機関、通称『仲介者』だ。  業務内容は表と裏の橋渡しや連絡所、トラブルの際の調停役だ。中立で公平な裁判官だと思ってもらえばいい。そういう存在って必要。  所長の東(あずま)は年齢不詳の飄々とした男性。椅子に腰かけたまま声をかけてきた。 「おう、ヤス。ヨリちゃんも来たな。座れや」  俺らが座るとすぐ話し出した。資料を放ってよこす。 「さっき、『表』のスパイが一人死んでな」 「国の秘密調査官ですか。仕事中に相手方にやられた?」 「特殊詐欺グループ調べてたんだが、そこのボスが『黒王』を名乗っててな」 「げ」  俺たち兄妹はハモった。  んなアホな。 「『黒王』といえば一年前突如として姿を消した裏社会の有名人物。常に黒服を着てることからあだ名がついたとされ、本名・出自・姿形不明。活躍したのはわずか一年程ながら、今も語り継がれる天才―――」  所長がニヤニヤして俺を見る。  依香はふーんと冷めた目を向けてきた。 「兄貴、戻ったのか」 「戻ってない! 俺じゃない!」 「へえー」  兄を信じろよ! 「『黒王』名乗る人物率いる組織を調査してたんだそうだ。アジトを見つけたようだが、その日本屋でこの本を買った一時間後に殺されて……」  と言って所長が出してきたのはあろうことか。 「兄貴のデビュー作じゃん」 「濡れ衣だ! 断じて俺じゃねえええー!」  必死で否定する俺の頭を妹はそっけなくはたき、 「冗談はここまでにして。兄貴が犯人なら、こんなバレバレな真似しませんよ。もっと巧妙に消すはずです」 「褒めてるかそれ?」 「それにダイイングメッセージ残すのに本買うヒマあるなら、メモ書くか緊急連絡すべき。本屋に必ずこれ売ってるとは限らないし、そも兄貴はペンネーム使ってて顔バレも避けており、本物が兄貴で作者とは分からないはずです」 「お、仮にも俺の妹。馬鹿じゃなかった」 「兄はこの通りナルシストですが、殺人だけはしませんよ」  断言する妹に、所長もうなずいた。ところで俺はナルシストじゃない。 「オレもこれが犯人を示すダイイングメッセージとは思ってない。犯人は分かってるしな」
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