怪火

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怪火

大学二年生の北原悠斗は、混雑した大学の食堂で、同じゼミを取っているメンバーに話しかけられた。 「なあ北原。お前のアパート、ゆうべ火事になったんだって?」 食堂価格で百八十円のカレーライスを前にして辟易する。面白半分にこの話を振られるのは、朝からもう何回目だろうか。 彼らはみんな退屈しているのだ。げんなりしているこちらの様子も気にせず、悠斗のことを取り囲む。 「人が死んだってマジ? 焼け死んだのかな」 「なあお前、そんとき家に居たの? どんな感じだった?」 「……いない。詳細も知らない。話せることなんかなにもない」 「ええー。なんだよ、使えねーな」 不謹慎極まりない落胆を無視して、悠斗はスプーンを動かした。 「それより誰か、割のいいバイトを知らないか? 出来れば日払い、現金手渡しのところで」 尋ねると、彼らは顔を見合わせる。 「あ。さてはお前、焼け出されたんだろ!?」 「ぐ……うるさい、面白がるな」 彼らの言う通り、悠斗の住むアパートは昨夜九時ごろに半焼した。     
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