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俺は髪を赤色に染めた。
それは高三になる直前の春休みだった。
ただぽっかりと、ある筈のものが無くなった感覚で、それを埋めるには色で満たすしか無かった。
大好きなおおいぬ座VY星と同じ色で。
「なー、恭介って星は見えるんだっけ?」
すっかり街路樹の葉も落ちた二月の夜。
同じ塾に通っていた恭介とは、いつもコンビニで夜食を買って、一緒に帰るのがルーティンだった。
「まあなー、何色かはわかんないけど。あ、信号」
「青。光は見えるんだったよな」
暗くなると、色の判断がさらにつきにくくなるらしく、こうして帰り道は信号の色を恭介に伝えるのもシンパシー同盟の役割だった。
「でもなんで?」
「いや、来年の二月さ、流星群がかなり出現するんだよ。だからセンター終わったら一緒に───」
「わるい、無理だわ」
ブレーキの耳障りな音が闇に響く。
でも夜空には、鮮やかな緋色が舞い上がっていた。
「俺、来月引っ越すんだわ」
「聞いてない……」
「言ってない」
凍えそうな寒さの中に溶け込む、恭介の緋色と、俺の深緑。そのどちらも、きっと恭介には同じ色に見える。それがたまらなく悔しかった。
だからずっと、俺の見える世界を見せ続けてやるんだって、勝手に思い込んでいた。
世界がこんなに鮮やかなのを、見せてくれてたのは恭介だったのにな。
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