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「なぁ、野次馬なら一人で行けよ」
面倒事が苦手な俺は、眉を顰めて抵抗してみる。
「いいじゃん、面白そうだし。はい、ちょっと通してねぇ」
ささやかな抵抗は呆気なくスルーされ、恭介は好奇心に燃えた目を細めながら、強引に人混みを掻き分けた。そうしてようやく最前列まで辿り着いた時だった。
「そういうダサい事は中学で卒業しましょう!」
朗らかで凛とした声色が淀んだ空気を貫いた。
目を見開く野次馬達。その視線を辿る。
そのあまりに奇妙な光景に誰もが固まっていた───と言うか、誰もが笑いを堪え、肩を震わせていた。
なぜならそこには……
「ダブルリストロックだ」
恭介は目を丸くして呟き、
「苺だ」
俺の視線は釘付けになった。
「栞っ! あんたパンツ丸見え!」
誰かがようやく指摘して、
「いや──!!」
彼女は赤面したまま体をくねらせていた。
その瞬間、周囲の野次馬が一斉に吹き出した。
バツが悪そうに一年の男子が佇んでいるその脇で、筋骨隆々とした柔道部の三年を、ハムスターの様に小さな君嶋栞が関節技をかけていたのだ。
寝転んだ状態できっちりと決められたダブルリストロックと呼ばれるプロレス技は、どことなく柔道の腕緘とも似ていた。
彼女がプロレス好きなのか、柔道経験者なのかは知らないが、そんなことよりこの場にいる殆どの人間は、君嶋栞のパンツに目を奪われていたのは間違いなかった。苺のパンツに。
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