始まり

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それから、俺は彼女と理科室を出た。 「じゃあ、俺は鍵返しに行くから。それじぁまた…」 俺が歩き始めようとした途端、彼女が「待って下さい!」と言った。 「あの、足 大した怪我じゃなかったので、あまり気にしないで下さいね」 「あのさ、俺ら同級生だよね?」 「は、はい」 「じゃあ、敬語使うのやめて欲しいなぁ。俺も、ため口だからさ」 そう、俺はずっと気になっていた。 彼女はずっと敬語で、俺はため口なのが、変な感じがしたからだ。 「え、いいんですか?」 「え、もちろんだよ。だって、俺らはもう友達だろ?」 「ありがと。でも、私とあんまり深く関わりすぎるといい事ないよ。だから、友達って 田嶋くんが思っても、私はそう思えないよ」 「えっ?それって、どういうこ」 彼女は俺の言葉を遮って言った。 「もう暗くなるから帰るね…それじぁ」 俺は結局、どういう意味なのか聞けずに行ってしまった。 なぜか、胸がズキズキした。 何故、彼女がそう言ったのか俺は考えても分からなかった。 俺から見える彼女は、謎だらけだ。 そうして、俺はまた歩き出した。 「紺野先生、理科室の鍵返しに来ました」 俺は、紺野先生に鍵を差し出した。 「お前、まやかと何かあったのか?」 先生は、鋭く言った。 「そんな事ないですよ」 俺は嘘をついた。 本当は、彼女が何を考えているのかを知りたかった。 だけど、こんな事を先生に聞いたらダメな気がした。 「お前も嘘が下手だな。昔のまやかとそっくりだよ。まぁ、今はあいつが何を考えているのか全くわかんなくなったんだけどな… 昔は、いろんな事を教えてくれたのになぁ」 先生は目を細めた。 「あの、先生に聞こうと思っていたのですが、白星さんと先生はどういう関係なんですか?」 「幼馴染だよ。年は離れているけど昔から仲がいいんだよ」 「そうなんですか…」 俺はこれ以上深入りしてはいけない気がした。 何故か、先生は苦しそうな顔をしたからだ。 「俺、そろそろ帰りますね…」 「おう、気をつけて帰れよ」 先生は綺麗な顔で、笑顔で言ったが、俺にはその裏側では苦しそうな顔をしている気がした。 また一つ、彼女が分からなくなった。
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