プロローグ③彼の事情

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 午後6時  お台場海浜公園に着いた頃には日が暮れていて、人通りは(まば)らだった。二人はぶらぶら歩きながら、ミキの到着を待っていた。 「自分一人で何が出来るのか確かめてみたかったんですけど、何から何まで助けて貰ってしまって……。」 「度胸は認める。」 「お仕事は何をされてるんですか?」 「んー、今は分析。高専か化学技術系に進みたかったんだけど、何が何でも普通が一番って考えの親だったから衝突して……俺も、普通って何だよってなっちゃって……すげえもめた。 工業出身の担任が間に入ってくれて、工業高校で落ち着いたんだけど、兄弟仲も、もんのすごく悪くて。兄貴が家で暴れるヤツで、寝てる間に何が起こるかわからないから、オチオチ寝てもいられなくて、誰か殺さないと終わらないんじゃないかとまで考え始めて、離れてみるまで自分はマトモだと思ってたけど、俺もノイローゼ入ってたと思う。親父が死んで更に酷くなってもう無理ってなって、家を出る覚悟してアルバイトから入ったの。 機械系と化学系が一緒になった感じのところで働きたかったんだけど、取り敢えず知ってる化学系が分析だったから、勉強しながら卒業しようと思って、面接受けたら通ったんだ。 離れてみたら何のこっちゃない。雨風しのげて安心して眠れる場所があるだけでこんなに違うのかってビックリするほど世界の見え方が変わってた。普通に拘る癖にウチが異常だったじゃねぇかって怒り通り越して呆れるくらい。 環境分析だけど、結構楽しいよ。根拠の説明出来ない理不尽が通らない世界だから安心感があるし、真っ直ぐな努力を認めて貰えるから。見えない100万分の1を追いかける操作をしているとき、一番生きてる気がする。」 「素敵ですね。」 「ん?……まぁ、分析って言えば響きは良いかも知れないけど、言い換えれば泥んこ遊びと水遊びの延長みたいな作業で、あんまカッコいいもんじゃないよ。」  少女は微笑みながら首を横に振った。 「あなたの夢は何ですか?」
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