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後編⑤手をとって
「実はあまりよく知らないんです。残念ながら。多分、誰も彼女の事、知らないんじゃないですか?役員としても挙がらない彼女を最高経営責任者のあなたが連れている事の方が疑問な位で。」
「……よく調べたね。役員の顔を覚えたの?」
「クリエイティブな仕事をさせるには自由な環境が必要だと思います。ある程度の自由はあったと思うんです。でも、出会っちゃったんですよね、僕たち。全然大丈夫じゃなかったし、全力で助けてくれって言ってたのに、あの時はわかってあげられなくて……。あれからずっと、考えてたんです。」
「……確か、少年が二人いたという報告があったが、君たちの事か。」
「もし僕があなたの立場だったら、後継者の事を考えます。人材の育成も勿論考えておられたと思います。でも、何で彼女に会わせる必要があるかって考えると……。」
「苦学生だね。今の年収だと生活が辛くはないか?君はテストを通過した。回答までの時間を見ると、取捨選択がうまいようだ。システム情報工学研究科、構造エネルギー工学志望……専攻はあれだが、まぁ、悪くはない。彼女が良ければ別に君でもいいんだよ。工学で博士課程に進みたいならスポンサーになろう。何か不満かな?」
ルカの言葉を遮った男性は提供していない個人情報を挙げて牽制した。名前と連絡先を渡してからの僅かな時間で洗いざらい調べられた事は察した。ルカは一瞬考えたが、首を横に振って答えた。
「それじゃあ、何も変わらないんですよ。今度は家族を人質に取るんですかね?子供が生まれたらどうするんですか?」
「喜ばしい事じゃないか。」
「同じ事繰り返すつもりじゃないですか?」
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