後編⑤手をとって

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 その時、秘書の女性が電話を持ちながら最高経営責任者(C E O)を呼んだ。 「日本の入国管理局が調査に乗り出します。軟禁状態の少女が居るとの申請があったようで……。」  ルカは振り返って少女の顔を見た。少女はルカの目を見つめ返す事で答えた。 「亡命か。考えたな。仮滞在許可が出てしまえば、審査中は就労禁止、入管からの呼び出し以外は自由の身だ。」  そう言うとミキはガムを包み紙に取り出しながら笑った。 「……そんな奴は居ないと突っぱねろ。」 「それが、既に社会的には殺されていて、機密のためには生命の危険もあるという証言も取れているようで……。」 「良かったね!軟禁状態の女の子はこの会社には居ないんだって!クビだ。」  男性らの会話を遮ってミキが少女に向かって言った。 「それでは、ヘンリーCEO。お忙しくなりそうなので、僕たちはこれで。お話し出来て光栄でした。」  ルカは深々と頭を下げた。  ミキが外階段の扉を開いて出ると、ルカは照れくさそうに少女に手を差し伸べた。 「行くトコ無いんでしょ?何もないけど、それでも良ければ……。」  少女がルカの手を取ると、ルカは思い出したように少女に聞いた。 「ところで、お嬢さんお名前は?」  少女はルカを見上げて答えた。 「アリス・プレザンス・リデルです。」 「!! 何処へ行く気だ。」  ヘンリーの声にルカが振り向いたが、ルカはすぐ、アリスの顔を見て、 「今日は忙しいよ。」  と言った。ミキが、 「着替え買わなきゃ。パルコ寄ってかない?可愛いランジェリーショップあるから。」  とアリスに勧めると、ルカが扉の向こうのミキを前蹴りする素振りをしながら、 「失礼しました。」  と扉を閉めた。 「ルイスだ!ルイスを呼べ!」  荒らげたヘンリーの声の向こう側で、階段を駆け下りるアリスを制止しようとするルカの大声が、展望台から次第に遠ざかっていった。
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