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その時、秘書の女性が電話を持ちながら最高経営責任者を呼んだ。
「日本の入国管理局が調査に乗り出します。軟禁状態の少女が居るとの申請があったようで……。」
ルカは振り返って少女の顔を見た。少女はルカの目を見つめ返す事で答えた。
「亡命か。考えたな。仮滞在許可が出てしまえば、審査中は就労禁止、入管からの呼び出し以外は自由の身だ。」
そう言うとミキはガムを包み紙に取り出しながら笑った。
「……そんな奴は居ないと突っぱねろ。」
「それが、既に社会的には殺されていて、機密のためには生命の危険もあるという証言も取れているようで……。」
「良かったね!軟禁状態の女の子はこの会社には居ないんだって!クビだ。」
男性らの会話を遮ってミキが少女に向かって言った。
「それでは、ヘンリーCEO。お忙しくなりそうなので、僕たちはこれで。お話し出来て光栄でした。」
ルカは深々と頭を下げた。
ミキが外階段の扉を開いて出ると、ルカは照れくさそうに少女に手を差し伸べた。
「行くトコ無いんでしょ?何もないけど、それでも良ければ……。」
少女がルカの手を取ると、ルカは思い出したように少女に聞いた。
「ところで、お嬢さんお名前は?」
少女はルカを見上げて答えた。
「アリス・プレザンス・リデルです。」
「!! 何処へ行く気だ。」
ヘンリーの声にルカが振り向いたが、ルカはすぐ、アリスの顔を見て、
「今日は忙しいよ。」
と言った。ミキが、
「着替え買わなきゃ。パルコ寄ってかない?可愛いランジェリーショップあるから。」
とアリスに勧めると、ルカが扉の向こうのミキを前蹴りする素振りをしながら、
「失礼しました。」
と扉を閉めた。
「ルイスだ!ルイスを呼べ!」
荒らげたヘンリーの声の向こう側で、階段を駆け下りるアリスを制止しようとするルカの大声が、展望台から次第に遠ざかっていった。
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