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私は同じ2年生で、隣のクラスの菊池さんと、ほうきを教室に戻すために廊下を歩いている。彼女はその人懐っこい、無邪気な笑顔を私に向けた。
「ねぇねぇ、小山さんはさ、立木先輩と上川先輩と、どっちがタイプ?」
「さぁ、どっちって言われても、そんなの答えられないよ」
あぁ、苦手なんだよね、こういう人って。
「あははー、まぁ、それもそうだよねー。ねぇねぇ、私も、小山さんじゃなくって、志保ちゃんって、呼んでいい? 私も、梨愛でいいからさ」
彼女の言う、「私も」の、「も」の意味がよく分からないけど、別に構わないから、構わない。
「いいよ」
「やった」
彼女はにっこりと笑った。
「じゃ、またね」
手を振って、それぞれの教室に戻る。彼女のこの垣根のなさは、彼女自身の個性だということにしておこう。
もう私も帰っていい時間だから、すぐに教室を出ようと思えば出られるんだけど、いま出たらまた、廊下で梨愛と鉢合わせになりそうで、ちょっと一呼吸おいてみる。
放課後の教室は、ブラスの吹き鳴らす金管楽器の音と、汗を流す運動部のかけ声で満たされている。こんな中に一人でぽつんといるのも、実はそれほど嫌いじゃない。
誰もいない放課後の教室は、いまこの瞬間にだけおとずれた、私だけの秘密の場所。
窓から練習中のサッカー部を見下ろす。あの中に、二人ともまだいるんだろうな。
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