#2『公園掃除』

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私は同じ2年生で、隣のクラスの菊池さんと、ほうきを教室に戻すために廊下を歩いている。彼女はその人懐っこい、無邪気な笑顔を私に向けた。 「ねぇねぇ、小山さんはさ、立木先輩と上川先輩と、どっちがタイプ?」 「さぁ、どっちって言われても、そんなの答えられないよ」  あぁ、苦手なんだよね、こういう人って。 「あははー、まぁ、それもそうだよねー。ねぇねぇ、私も、小山さんじゃなくって、志保ちゃんって、呼んでいい? 私も、梨愛でいいからさ」  彼女の言う、「私も」の、「も」の意味がよく分からないけど、別に構わないから、構わない。 「いいよ」 「やった」  彼女はにっこりと笑った。 「じゃ、またね」  手を振って、それぞれの教室に戻る。彼女のこの垣根のなさは、彼女自身の個性だということにしておこう。 もう私も帰っていい時間だから、すぐに教室を出ようと思えば出られるんだけど、いま出たらまた、廊下で梨愛と鉢合わせになりそうで、ちょっと一呼吸おいてみる。 放課後の教室は、ブラスの吹き鳴らす金管楽器の音と、汗を流す運動部のかけ声で満たされている。こんな中に一人でぽつんといるのも、実はそれほど嫌いじゃない。 誰もいない放課後の教室は、いまこの瞬間にだけおとずれた、私だけの秘密の場所。 窓から練習中のサッカー部を見下ろす。あの中に、二人ともまだいるんだろうな。     
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