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「ち、ちがっ、そんなんじゃないから!」
「分かってるってぇ~」
奈月は笑ってるけど、私は笑えない。柴田さんも、やっぱり笑ってない。
「最初と最後は、お前らイヤなんだろ?」
市ノ瀬くんが改めて、作戦を立て始めた。
最初に奈月が全力で飛ばす、次に柴田さんが走って、3番手の市ノ瀬くんで遅れを取り戻し、4番目の私が順位をキープ、最後に津田くんが走って、最下位になるのは避ける作戦だ。
「まぁ、これなら何とかなるでしょ」
「ずいぶんと志の低い作戦だけど」
「え? もっと高い目標を持ちたいわけ?」
「ないないないない」
「4組のオール男子チームは、無視してOK!」
5人が顔を見合わせた。なんとなく全員で笑い出す。
「本気でバトン、借りてきて練習すればよかったな」
奈月が言ったら、津田くんが落ちていた小枝を拾った。
「これでとりあえずやってみっか」
「練習にならないし!」
柴田さんが言うと、市ノ瀬くんは完全にふざけた調子で、小声でささやいた。
「俺たちのこの作戦、他のクラスに絶対にバレないようにしような」
「秘策だからね」
「秘策だな」
奈月と市ノ瀬くんの意気込みが凄くて、他の3人はまた笑った。
「あぁ、私、そろそろ部活行かないと」
奈月が立ち上がる。
「今年、バレー部は体育祭なにやるの?」
「バレー部は、毎年ライン引きだって」
奈月は笑顔で手を振ると、体育館へ向かって走っていった。
「俺もグラウンド行かないと」
「サッカー部は?」
「ハンド部と一緒に用具係」
私は津田くんを見上げる。
「バスケ部はね、周辺警備」
「あ、あいつ、タオルと飲み物、忘れてってるぞ」
市ノ瀬くんのすぐ隣には、奈月の白いタオルと、スポーツドリンクのペットボトルが、そのまま置かれていた。
「しゃーねーな、持って行ってやるか」
「俺、体育館行くから、ついでに持っていこうか」
津田くんがそう言ったのを、何となく私が先に手に取った。
「いいよ、私が届ける」
「じゃあ、途中まで一緒に行こうか」
「うん」
私が立ち上がるのを、彼は待ってくれている。
差し出されたその手には、何を乗せればいいんだろう、まさか私の手じゃないよね、
奈月のタオル? それとも、飲み物の方?
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